平和・人権・環境活動に熱心なデザイナー Katharine Hamnett

今年の夏、ボーナスでKATHARINE HAMNETT(キャサリン ハムネット)のスーツを買った。そのブランドのスーツと、同名のデザイナー(以下キャサリンさん)をご紹介する。


ブランドのHP、Wikipediaの記事は以下。
http://www.katharinehamnett.jp/index.html*1
キャサリン・ハムネット - Wikipedia


購入動機

まともなスーツを買おうと思ったということが、このスーツを買った一番大きな動機であった。
僕は就職してから2着スーツを買ったのだが、どちらもCOMME CA ISMで1万〜1万5千ほどの安物であった。最近そのスーツの生地が薄くなってしまい、直しに持っていったところ、5000円もかかってしまった。このことが今回の買い物のきっかけになっている。はじめからよいスーツを買って補修も最低限で済むようにし、さらに補修料金にも理不尽さを感じないようにしようと考えてるようになった。
そう考えたとき、5万円以下でよいデザインのスーツが買えると前から目をつけていたこのブランドを思い出し、渋谷パルコへ向かった。

スーツのデザイン

このブランドは、現在ライセンス契約で販売している。作ったサンプルをキャサリンさんが見て、ブランドで販売していいかどうかの許可を出す、という方式だそうだ。キャサリンさんは現在60を超えていらっしゃるが、細身のスーツが好みのようで、ラインのゆるいものをデザイナーが持っていくと、怒られてしまうこともあるそうだ。そのせいで、店にはたまに子供服かと思うような、女性の店員さんも着られないような細いスーツが届き、店員さんもどう売っていいか困るのだという。


Katharine Hamnett SUITE


今回購入したスーツはベースがとても暗い濃紺で、青のストライプが濃く、股上も浅めでお尻がきつい。シルエットはシャープな印象、若干ブーツカット気味になっているがそれほど目立たない。カジュアルな印象なので上下で揃えなければ休日でも使える。
ディスプレイされているスーツに一目惚れして買うことにしたのだが、それだけ引きが強かった。僕にしては派手目なスーツで、仕事場に着ていっても変な目で見られないか不安であったがその様子はなく、いつもどおり環境に埋没している。


デザインについては、以下の顧客からもお察しいただきたい。

Wikipediaより

図らずもデヴィット・ボウイも着ているブランドの服を着ることができてうれしい。

キャサリンさんについて


Katharine Hamnett


キャサリンさんは自分の仕事にもの凄く自覚的な人で、それは以下の言葉に端的に現れている。

「男性も女性も、服を着るのは多かれ少なかれセックスをするためです」(Katharine Hamnett)
Nancy Etcoff『survival of the prettiest』より(オタクの精神病理としての「劣等感や自己不全感など」つづき(汎適所属)からの孫引き)

「実際その通りだが、日本的に言えば粋じゃない」とは恋人の弁で、その通り身も蓋もない言い方なのだが、このわりと無自覚ないやらしい部分を当のデザイナーが言い切ってしまうというところが面白い。


Katharine Hamnett


世界の捉え方についてもとことん自覚的で、汚いところからも目を背けない、凛とした姿勢が感じられる。それはある特定の問題ではなく、平和、人権、環境など、幅広い問題について取り上げるところからも伺える。
鯨肉の有害性、環境破壊を行うブランドへの不買運動と改善の呼びかけ、HIV予防のためのコンドームの使用、原子力発電所への反対、金の採掘に伴う有害物質の発生と、今年に入ってからも既にこれだけのメッセージを発信している。
これは世界の現状を把握した上で、自分の立場でできる最大限のこと、すなわちファッションデザイナーとして広くメッセージを発信する、いわば広告塔の役割を自覚してこその活動であろう。


このようなことを知ることができたのも、会計の際、レジの裏の方の"WORLD PEACE NOW"のパネルが目に留まり、それをきっかけに店員さんからデザイナーについていくつか話を聞くことができたからで、広告塔としての役割はショップ店員にまで(全員とは言えないが)浸透しているように見受けられる。


ちなみに同様のお店としては、最近目に付いたところだと、THE BODY SHOP家庭内暴力の根絶を訴えたキャンペーンを行っており、店舗に大きなポスターがあった。


Katharine Hamnett


さて、キャサリンさんの活動の中でも大きく力を入れているものとして、コットン農民(特にウズベキスタン)の窮状と服飾産業へのオーガニックコットン使用の呼びかけを中心とした、途上国での過酷な労働条件の告発がある。服飾業界に携わるものとして、服の原材料についての問題は看過できないはずのものであり、それについての活動に重きを置くというのは至極真っ当な姿勢ではあるものの、なかなかできることではない。
ほかの職業に当てはめて言えば、たとえばトラックドライバーが排気ガスによる大気汚染を意識し、その問題を訴えるようなもので、自分の批判の矛先は真っ先に自分に向く。たいていの人はそのようなことを避けるため、自分が環境に与えている負荷については直視していないように思われる*2
ここにも、キャサリンさんの曇りのない目線を感じることができる。


Katharine Hamnett


このような活動は1983年より始められたそうで、その活動における課題のすべてを表現する言葉が「ファッションによる救済」である。これが念仏のようにただただ唱えられるお題目ではなく、すべての活動の根底に流れている思想となっていることは、これまで見てきた事柄より明らかである。


面白いブランド、デザイナーと出会えたことをうれしく思う。

*1:写真はすべて上記HPより引用

*2:できるところから少しずつやるのは結構だが、それだけでは問題を直視していることにはならない。まず環境負荷の大きなものを洗い出し、それについて対処可能かどうか考える必要がある。