イベントレポート『今そこにある危機 ダルフール・ジェノサイドに何ができるか』
ダルフール紛争が終わったという言説が米外交官から出されたり、それが取り消されたり、国連が南部に重心を移したりというところを、以前の記事で紹介したが、こういう報道はごちゃごちゃしてよくわからない。実際状況はどうなのよ。
というところで、10/18に開催された、掲題のシンポジウムに行ってきた。
結果、スーダン、ダルフールの現状はもとより、それを取り巻く近隣諸国の状況、国際社会の対応、さらにはダルフールを見る複数の見方など、幅広い情報が得られた。Human Rights Nowさんのイベントレポートもあるが、だいぶ圧縮されててもったいないので、こちらのブログでも取り上げる。
2009/11/13 追記
finalventさんがこの記事に言及してくださったのだけど、そのコメント欄でfinalventさんとswan_slabさんが、この記事では言及してない大事なところについて議論してるので、ぜひご参照ください。
ダルフール問題の今 - finalventの日記
このイベントは、東京大学「人間の安全保障」プログラムと、ヒューマンライツ・ナウの共催で行われた。前者の学生が主体的に動いた企画なんだとか。えらい。
プログラムは、前半が外務省国際協力局局長の木寺氏と、スーダン国会議員・弁護士のオスマン氏による基調講演、後半が6名によるパネルディスカッション。前半が30分前倒しで進んだのに、最後は1時間延長して終了した。ありえないと思う。
話しは日本語英語同時通訳で行われたのだけど、最後30分くらいは通訳が聞こえなくなって追えてない。
ごく簡単なまとめ
まず、シンポジウムの中でも紹介された、ダルフールの現状を簡単にまとめたビデオを紹介する。ざっくり概要が把握できる。
スーダン・ダルフールの現状
- ダルフール紛争による被害者
- 直接的な紛争の被害者:400万人
- 難民キャンプの収容者:300万人
- ICCの逮捕状によりNGOが追放され、十分な人道援助が行われなくなり、3000万人の命が危機的状況にある。
- ダルフール紛争は変容し、小規模な戦闘が散発する状況となった。ダルフール地域は無法地帯となり、難民は未だ帰還できていない。
- ダルフールの人が最も望むことは2つ。
- 帰還。そのための短期的な平和構築プログラム。それがないと、ダルフールはいつまでもNo Goエリアのまま。
- 犯罪者を裁くこと。さらなる紛争を防ぐために。犯罪者は裁かれるという文化をつくる。
- 南部スーダンでは民間人同士の戦闘、神の抵抗軍からの攻撃があり治安が悪化。南部自治政府は対応できていない。
- 南部スーダン自治政府を担うSPLMが主催したジュバでの会合に、さまざまな勢力が集まり、ジュバ宣言が作られた。
スーダンを取り巻く近隣諸国
ダルフールと国際社会
和平プロセス
ダルフール問題の原因は?
中国が石油を買って紛争を助長しているんじゃないの?
スーダン、ダルフールに対する日本の援助について
- 日本は2007年以降、3億7千万ドルをスーダンに支援している。そのうち1億ドルはダルフール向け。
- 現在のPKO派遣全16箇所のうち7箇所がアフリカ、うち2箇所がスーダン。日本はスーダンのPKOに、430億円の資金援助をしてきた。
- ダルフール−ダルフール対話、ダルフールの人々の意見を吸い上げ、平和に対する世論喚起をし、またその意見をバシール大統領に伝える。このプロセスにおいて、日本は重要な貢献者となっている。
- 日本の援助姿勢は、相手国のオーナーシップを重要視する。問題を解決するのは、あくまでスーダン人の意思、そして努力。
- 日本が大きなドナーということは世界に知られている。今の日本が行うべきは、大きなドナーとして持った発言力を有効に使うことだ。
基調講演
「日本は経済大国で、それに見合った大きな支援をしている。そのことにプライドを持って欲しい。」木寺氏
「日本は小さな国?大きな国?」「日本はいい国?悪い国?」頭から会場へ2つの質問を投げかけた木寺氏。会場では、大きな国、いい国に手を上げる人が多かった。
他国から見た日本は、世界第2位の経済大国。世界から好感を持たれている国のランキングで、日本はドイツに次ぐ2位。木寺氏は、そういうプライドを持ってほしいと訴えた。
また、日本の報道の偏りを指摘。「日本のプレスは特殊で、自国のいいところを書いてくれない」アフガンでの活動は世界的に評価されているにもかかわらず、そういった報道は一切出ない。「知る権利を奪われている」
話をダルフールに移し、紛争についてのコストを指摘した。国連では年間50億ドルが紛争関連にまわされ、PKOの予算は膨らんでいる。しかしこれでも不足しており、例えばダルフールでPKOが確実に機能するためには、25億ドルが必要になる。
日本の援助については、4回に渡るTICADの開催実績を強調。また、昨年福田首相が発表した、2012年までの対アフリカODA倍増計画を挙げ、経済成長を後押ししているとした。
問題は、その援助がどう使われるかだが、日本の援助スタンスは、相手国主導を基本としており、相手国の要請に応じて援助計画を立てる。木寺氏は、対アフリカの外交に欧米中国も大変熱心な中、アフリカ側の外交官から「日本のように、アフリカに何をやりたいか聞いてくれるところはありません」という言葉を紹介した。*1
2005年、南北包括和平合意(CPA)によって、アフリカで最も長期化したスーダンの南北内戦が終結した後、日本からスーダンにはODA資金がたくさん流れた。南北対立解決のための努力はしている。
最後に、アフリカへのメッセージとして、カンボジアでは、全ての指導者が、「これが平和にできる最後のチャンスかもしれない」という危機感を持ち、和平合意が作られたことを語った。
「PeaceとJusticeの実現を」オスマン氏
オスマン氏からは、ダルフールの現状が語られた。
現在、ダルフール紛争による犠牲者は、
- 直接的な紛争の被害者:400万人
- 難民キャンプの収容者:300万人
また、国を逃れチャドにたどり着いた難民は、ダルフールの治安が回復せず、未だに帰還できていない。ICCのアル・バシール大統領への逮捕状発行に伴い、大手国際協力NGOが追放されたため、人道援助が危機に瀕している。とりわけ医療へのアクセスが著しく損なわれている。食糧の配給も十分ではなく、3000 万人の命が危機にさらされている。
和平プロセスは現状、成果はない。リビア、ドーハで行われている和平プロセスは、反政府組織が団結できていないため、進展していない。団結できればプロセスは前に進むだろう。
このほかにも、アフリカ大陸の内外から、多数のイニシアチブが出されているが、互いに対立、矛盾しているものも多い。これらのイニシアチブはたいてい挫折し、関係者は去っていく。そしてまた新しい人が来て、イニシアチブが作られるが、彼らは一から状況を把握しなくてはならない為、毎度時間がロスされている。
全ての関係者が連携しなければ、それだけ人道危機が長引いてしまう。
ダルフール紛争は終わったという言説もあるが、残念ながら現状そうなってはいない。
ダルフールの人がもっとも望む2つのこと
- 短期的な平和構築、安全保障プログラム
- 現状を打破するためのもの。安全が確保されない限り、ダルフールは No Go エリアのままだ。
- 市民の保護
難民の人々は、何より帰還を望んでいる。国際社会は食料を支援するが、彼らは本当は食糧を生産したいのだ。このまま食糧援助を続け、キャンプに住ませ続けること、それはジェノサイドを支えることに他ならない。そうこうしているうちに、今ダルフールには移民が流入してきており、実効支配しつつある。
犯罪者を裁くことの重要性も指摘された。
「正義(Justice)がなされること」犯罪者が処罰されること。リベンジではない。同様の犯罪を防ぐために。CPA合意では、南部の犠牲が忘れられている。犯罪者は処罰を受ける、そういう文化に変えていくことが必要だ。
日本に対して、短・長期的な支援をお願いしたい。対政府間だけでなく、スーダンの市民社会の活動にも参加してほしい。市民保護の責任が果たされているか、基本的人権が守られているか、モニターして欲しい。
日本人がいろいろな感心をダルフールに寄せてくれていることはありがたい。加えてお願いとして、グローバルな方々と協力し、NYなどでどんな活動がなされているのか、モニターしながら活動して欲しい。
国際社会がジェノサイドを止められない。これは由々しきことだ。
ダルフールでは今もジェノサイドが行われているのか。そうではないというカンパーラ教授のような人もいる。しかしジェノサイドは数だけではない。ダルフールで行われている戦争犯罪、人権侵害、これらはジェノサイドである。
ICCもアル・バシール大統領の追訴のため、ジェノサイドの証拠を集めている。
後半 パネルディスカッション
司会
パネリスト
- 佐藤 啓太郎(外務省アフリカ紛争・難民問題担当大使兼国連改革担当大使)
- 土井 香苗(アメリカの人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスディレクター)
- ヨハン・セルスJohan Cels(UNHCR駐日代表)
- 福井 美穂(日本の国際協力NGO難民を助ける会スタッフ)
コメンテーター
佐藤氏は、アフリカの首脳達にもっとも顔の売れている日本人であり、福田首相の出席するアフリカ各国との首脳会議には、全て同席した人物だと、木寺氏から紹介があった。
また、栗田氏は、オスマンさんからスーダン人と言われるほど深くスーダンに関わってきた経歴がある。
時系列をばらして、論点ごとに整理する。
スーダン・ダルフールの現状
オスマン氏に続き、土井氏からも、ダルフールの現状が紹介された。
ダルフールでは、直近*2でも、9/17,18に、コルマ(ダルフール北部の村)に空陸からの攻撃があり、16人が死亡した。また、近隣のいくつかの村も焼き払われた。
ダルフールの難民は未だに帰還できていない。
人権問題は南部にもある。各地で民族間の紛争が起こり、今年6月までの半年間で1200人の人が亡くなった。スーダン人民解放軍(SPLM)の率いる南部スーダン政府は、民間人同士の戦闘、また神の抵抗軍(LRA)の攻撃から、人々を守ることができていない。
南部スーダンの北方に位置するマラカルでの紛争は、ハルツーム政府と南部政府の衝突であり、そこでは人権侵害が悪化した。
ハルツーム政府与党の国民会議党(NCP)は、民間への攻撃を支援しており、それに対してスーダン政府はなんの対策も取っていない。
CPAには人権、安全保障が含まれている。これにもとづき、政府軍は撤退すべきだ。
ハルツームでは、基本的な政治的自由が制限されている。大きな検閲があり、今年6月までの半年間で、新聞が発行停止になったことが10回はあった。これは、今後の選挙への意味を持つ。
ヨハン氏は、ダルフール紛争は、以前と比べその質を変えていると語る。
- 大規模な戦闘はない。
- 小規模な戦闘が散発する。
- ダルフールは無法地帯となった。
さらに、反政府勢力の分裂により、誰と対話すればよいのかわからない状況になった。
今年の1〜8月までの状況として、UNHCRは大都市を中心として活動した。他の地域は危険なためオペレーションができないのだという。
オスマン氏は、ハルツームに流入している国内避難民について語った。政府はハルツームに難民キャンプを増設しないため、彼らは難民としても認識されず、誰にも注目されない状態にある。
質疑で、スーダン内部の運動について聞きたいという質問が上がった。一般のスーダン人が、ダルフールへのシンパシーを持っていなかったことも、ジェノサイドを止められなかった要因だと、友人のスーダン人から聞いたのだという。
それに対してオスマン氏は、その当時、ダルフールに対しては、スーダン内では言論の自由がなかったことを述べた。現在、検閲は以前ほどひどくないが依然として存在し、我々は、市民社会の運動、集会、出版などの自由を求めている。
ジュバ宣言(後述)でもこのあたりは盛込まれており、今後は自由になる方向に進むのではないか。そして現在の市民運動は、その動きの後押しになるのではないか。
政党活動、市民活動は戦略をもって行わなければならない。それは、出身地域や、団体の利益だけでなく、全スーダンの問題について考えることが大事だ。スーダンの抱える問題は国境を越え、チャド、マリなども関係する。
スーダンを取り巻く近隣諸国
ヨハン氏が、近隣諸国との関係の中で、スーダンを位置づけた。
スーダンの抱える問題は、国内ではハルツーム、ダルフール、南部スーダン、東部戦線のすべてが関連し、国外に目を向けるとチャド、中央アフリカ、エチオピア、エリトリアなど、多くの要因が関連する。
北部スーダンにはエチオピア、エリトリアからの難民がある。両国間の国境をめぐって紛争で、多くの難民が発生した。両国間の和平交渉は、未だ済んでいない。
チャドからダルフールへは、4万人が流入している。他国の反政府勢力が、東チャドを拠点にして武装している。チャド政府は他国の反政府勢力を支えているという指摘もあり、今の時期の雨季が終わると、国境を越えた戦闘が行われるのではないかと危惧している。
東チャドでは18万人が国内避難民となった。ダルフールの難民も、東チャドの難民もザガワ族で、違いはない。
中央アフリカでは、7万人の反政府勢力が活動している。早急に治安維持軍を展開すべきだ。
ハルツームには、ダルフール、南部スーダンからの国内避難民が流入している。
ダルフールと国際社会
佐藤氏が、ダルフール問題とスーダン、国際社会の関係の変容を語った。今までは"Darfur crisis in Sudan."、今では "Sudan crisis in Darfur."。ダルフールがスーダンの未来を左右する情勢にある。
日本は、カタール政府、バソレAU国連合同調停官の勧めるイニシアチブを支持している。このイニシアチブはAU、UN共に支持しており、日本もこのプロセスが最も具体的に活動していると見ている。しかし、このプロセスに参画する反政府勢力は、JEMだけである。
他にイニシアチブは、リビア、エジプトなど、各国がやっているが、動きは止まっている。
また佐藤氏は、今スーダンの南北問題は、ダルフールより重要と言われていることを指摘。ハルツーム政府と南部自治政府が互いに影響を与え合いながら、悪い方向へと事態は進んでいる。
ヨハン氏は、ダルフールへの人道支援について、国際社会のアプローチは、成果を上げていると語った。ダルフールの人々の生活のニーズに応えており、また彼らを支援する人も増えている。一方南部は、教育などが分断されている状況にある。
オスマン氏は、佐藤さんが日本の援助姿勢を言った「問題を解決するのは、あくまでスーダン人の意思、そして努力だ」という言葉(後述)に対し、これはその通りだと思うと語る。重要なのは、人々に自助努力をさせることだと、よく言われている。
しかし、すぐに自助努力で乗り越えられる問題なのか、そこを現実的に見なくてはならない。
アフリカの紛争は、アフリカの国同士、国内の市民同士、部族同士の争いではある。だが、アフリカも国際社会の一員でもあるのだ。アフリカで人権が侵されるなら、それを保護する義務が、国際社会にはある。
アパルトヘイトは、国際社会の強い圧力があったから終焉した。スーダンについても、同じく国際社会の支援がなければ人権侵害は終わらない。
国際社会からのアプローチに対して、国家の主権侵害だという声もある。しかしそもそも、国家の主権は、市民の権利を保護するためにあるものだ。
オスマンさんは弁護士としてスーダン国内で活動されており、他の弁護士、医師を巻き込んで、人権侵害の犠牲者を無償で助けるためのネットワークを作った。その際、アムネスティ、HRWなどの人権系NGOから協力があった。そして、世界中から嘆願書を受け取った。自分達は一人じゃないと思うことができた。
和平プロセス
栗田氏から、ジュバ宣言が紹介された。SPLMが主催する会合がジュバで開かれ、さまざまな勢力が集まりジュバ宣言を作った。そこには、言論などの自由を制限する法律を撤廃しなければ、来年の大統領選挙・南部の分離独立選挙をボイコットすると謳われていた。またダルフールについても、ジェノサイドに対する政府の補償、犯罪者への刑罰、経済的歪みの是正を求めていた。
ダルフールにも、ダルフールダイアログ、真実と補償委員会が必要だ。*3
オスマン氏は、細かく分裂してしまった反政府組織が和平交渉を行うことの難しさを指摘した。ダルフールにある多数のコミュニティーのリーダーは、これまで2万5千人だったのが5万5千人にまで増えた。それだけ地域の組織、そして反政府勢力が分裂しているということだ。
そんななか、今年に入ってアブジャ協定に合意したJEMだけが、政府と和平交渉を行う当事者となっている。これはよろしくない。全ての派閥、ステークホルダーをプロセスに取り込むことが肝要だ。
質疑では、非暴力的な紛争の解決とは、どのように行うつもりかという質問が出た。その方は、イラクで弁護士のトレーニングを日本人が行っている事、土井氏が単身エリトリアに乗り込んで活動をしたことをあげ、日本とアフリカの弁護士で協力はできないものかと提案していた。
それに対してオスマン氏は、スーダン国内にも、和解のためのメカニズム、その知恵があると語った。それに則り、社会的な和解を進めていく必要がある。
紛争終結後は、南アなどの事例から学んでいく必要があるだろう。しかし今は戦争中で、その対応を人々が学ぶ必要がある。戦闘を止めることが最優先だ。
ダルフール紛争の原因は?
栗田氏は、ダルフールの悲劇の構造を見ると、南部で起きたことと同じように見えると語る。それは、経済的な歪みに起因した紛争だ。バシール政権で、その歪みが、かつてないほど大きくなった。
スーダン内では、ダルフールにとどまらず、スーダンの民主化を求める運動が起きている。私達は、スーダン内部のせめぎあいも見ていく必要がある。
オスマン氏は、紛争の原因として最も大きいものは、民族、人種の問題だと言う。遊牧民と農耕民の対立がエスカレートし、政治化され、今の政府がある。さらに政府は、スーダンを「アラブ・イスラムの国」とし、他の民族、宗教を無視した。ダルフールの89%はアフリカ系だが、99%はイスラム教。宗教による対立は原因ではない。
さらにここには、チャドの紛争、スーダン南北の問題、リビアなども絡む。また、リビアからチャドへ入る移民の動きにも影響を受けている。
佐藤氏は、ダルフール紛争の本質は3つあると言う
中国が石油を買って紛争を助長しているんじゃないの?
質疑で、資源の問題、石油利権についての質問がされた。日本は石油のエンドユーザーだが、そのことでスーダンの紛争を助長してはいないか?石油におけるキンバリープロセス*4が必要なのではないか。
別の質問で、石油をめぐる中国の関与も聞かれた。
これに対してオスマン氏は、最近になって、石油が紛争の原因といわれるようになってきたが、自分はそうは思わないと言う。水、石油など、資源をめぐる争いは確かにあった。しかし、中国以外、ダルフールにプレゼンスを持っていない。
また、佐藤氏は、中国のスーダン関与について答えた。おしなべて、アフリカは中国を大歓迎している。それは、アメリカみたいに民主化を求めることなく、日本みたいに条件をつけることなく、金を持ってくるからだ。ただ、石油採掘権を取る企業がいるかどうかはわからない。日本は投資しているが、それは道路整備などに使われている。
スーダンの司法と、ICCの逮捕状について
オスマン氏は、ICCの逮捕状は、スーダン国内で物議をかもしたと語った。ダルフールでは戦争犯罪、ジェノサイド的行為が行われている。これに対しICCは勧告をした。
この問題の管轄権は、当然国内の司法だが、スーダンの司法にはそれを裁く能力もなく、また意思もない。そもそも三権分立ができておらず、法整備もされていない。
ICCの法的手続きにも問題がある。ジェノサイドを照明するためには証拠が必要ということだ。実際は、全て破壊されたため、証拠を得ることは不可能に近い。
国内の犯罪は4年前から増えている。そしてその犯人は、法の裁きを受けていない。上記の通り司法が無力で、犯罪者を裁く場がないのだ。
スーダンで人道問題を救済する唯一の組織が、アフリカの人道委員会、だが彼らはスーダンの司法に代わるものではなく、上記のような問題も取り扱えない。
スーダン国内の法が整備され、スーダン人が法に関する能力と、それを遂行する意思を持つことができればよいが、いまはそれがまだない。残念だが、スーダン国内の人権問題に対する司法は、国際社会にゆだねるしかない。
またオスマン氏はジュバ宣言を取り上げた。これは、ハルツームの20数団体も指示している。ジュバ宣言には、ダルフールへの政府の対応が変わらないと、選挙には参加しないと明記されている。
人々は、正義と説明責任(Accountability)が果たされることを求めている。
一方土井氏は、ICCのバシール逮捕状は、たとえ一国の元首でも、法にもとれば裁かれるという明確なメッセージを発信したと評価した。
今、パレスチナ・ガザ地区での戦争犯罪をICCに付託する動きがある。一方で、それを阻もうとする勢力もある。
ICCの活動を支援する事は、非常に重要なことだ。ICCの加盟国であり、最大の財政拠出国である日本は、ICCのプロセスを前に進めるため、責任を果たすべきだ。
また土井氏は、PeaceとJusticeという点に触れ、南北スーダンの和平合意では、Justiceが抜け落ちており、紛争中の人権侵害は罪に問われておらず、そのことが、ダルフールでの人権侵害を助長したと指摘した。
責任を追及されなければ、それは次の紛争を呼ぶ。Justiceのあった和平となかった和平を比較すると、なかった和平は長続きしないことが明らかになっている。Justiceを無視したほうが和平プロセスはスムーズに進む。しかし、PeaceとJusticeは、その両方が必要なのだ。
スーダン、ダルフールに対する日本の援助について
佐藤氏から、日本のスーダンに対する援助について紹介された。
日本は2007年以降、3億7千万ドルをスーダンに支援している。そのうち1億ドルはダルフール向けである。また、現在のPKO派遣全16箇所のうち7箇所がアフリカ、うち2箇所がスーダンである。日本はスーダンのPKOに、430億円の資金援助をしてきた。ダルフールが平和であれば、この資金をもっといろいろなことに回せる。
また、日本のスーダンへの貢献として、ダルフール−ダルフール対話を取り上げた。これは、ダルフールの人々の意見を吸い上げ、平和に対する世論喚起をし、またその意見をバシール大統領に伝えるプロセスだ。
「先ほどの木寺さんの質問に対し、私は日本は小さい国だと思う」福井さんは、日本はスーダンで、顔の見える人道支援が足りないと指摘する。
それに対して佐藤氏は、日本の外交努力を強調した。現在援助金はプールファンドシステムで運営されており、途上国側はどの国から来たお金かを意識せずに使うことになる。日本はこの制度に反対している。また、UNHCRやWFPなどの国連機関に多額の援助をしていても、彼らは活動に際して、日本の援助のおかげで活動ができているなどとは言わない。援助物資に日の丸をつけて欲しいという要望も通らなかった。それでも日本大使は毎日のようにテレビに出演し、現場でもいっしょに汗を流している。国連機関に日本人もいる。顔の見えるような活動はしているつもりだ。
佐藤氏は、アフリカと活動するとき、まず大切にするのは、アフリカ側のオーナーシップである。そして彼らだけではどうにもならないところを、国際社会のパートナーシップが支えていく。
解決するのは、あくまでスーダン人の意思、そして努力だ。そして私たち日本人は、どうやってスーダンの人々といっしょに、汗を流して仕事が出来るのかを考えなくてはならない。
アフリカ人は、自分達の悲惨な歴史ばかりを話し、困った、困ったと言う。だが、自分達がこういうふうにしたいということは話さない。
日本はダルフール以外にも責任を持っている。彼らの自立も必要だ。
ヨハン氏は、日本はいくつかの側面で、ダルフールに多大な支援をしていると評価した。
ダルフール西部へはビニールシートの援助が行われている。また、UNHCRも日本に支援されているが、それはスーダン南部での活動に限られる。
土井氏は、佐藤氏の発言を受け、ドナーとしての責任について語った。日本がドナーとして大きな存在ということは、世界中で知られている。世界が今、日本に望むことは、ドナーとして持つ大きな発言力を使って、主張をする外交をすることではないだろうか。スーダンにも、ICCの義務に従うよう、求めるべきだ。
また、スーダン国内の、人権に対する動きもある。相手政府だけでなく、こういった動きをサポートする事も必要だ。
スーダンの中で活動するNGO
福井氏は、現地で活動するNGOとしての関わり方を紹介した。
まず政府関係者、国連関係者が集まる中、オペレーション型の活動を担う存在として自分達の団体を定義した。
難民を助ける会では、スーダンに日本駐在員を派遣して、オペレーションにあたっている。
スーダンには確実にニーズがある。その他さまざまな条件を考慮し、可能と判断すればオペレーションを開始する。
アフリカの角への自衛隊派遣と、憲法9条
栗田氏から、日本のスーダンへの軍事外交について懸念を表明された。
ここ数年、アフリカの角への日本の関わりが増えてきた。日本がよくやる民生支援もできるのに、なぜかことさら軍事による。
福田政権下において、日本はスーダンへのPKOへ参加し、2008年10月に自衛官2名がスーダンに渡っている。さらに今年6月のソマリア海賊対策、これには海自のほか、空自、陸自も参加。陸自はジブチに基地を持った。
これまでアメリカ追従外交で、9.11以降テロとの戦いを支援してきたが、ここ1,2年、それは誤りだったのではないかという意見が生まれた。要するにアメリカ追従のテロとの戦いは頓挫したのだ。
テロとの戦いを見直すため、そちら方面には兵を出せない。しかし自衛隊を外に出す実績は造り続けていきたい。それが、最近のアフリカの角への、積極的な関わりになっているのではないか。
民主党に政権交代後も、自衛隊派遣の流れは相変わらず続くと思われる。小沢氏はPKOなら自衛隊を派遣すべきとの考えを以前から持っており、アフガニスタン、そしてスーダンへの自衛隊派遣もありうる。
そしてこれは、大規模な自衛隊の派兵、そして憲法9条の改正へ繋がりかねない。
これに対し佐藤氏は、スーダンへ派遣した自衛官について、情報を得るためには人を送り込まねばならない。
また、海賊問題については、エチオピア−エリトリア、エリトリア−ジブチがそれぞれ緊張状態にあること、またソマリアの問題と、海賊問題を取り囲むさまざまな問題を上げ、それらの情勢も考慮して欲しいと述べられた。
人権団体の是非
客席のスーダン人から、こんな声が上がった。
自分はスーダン人だが、このように祖国のネガティブな面が声高に報じられることを、とても恥ずかしく思っている。
スーダンで人間の苦しみが起きていること、それは否定できない。
土井さん、私の声を聞いて欲しい。
人権組織はスーダン国内で問題とされている。人権組織によるスーダン批判は、スーダンの印象を悪くする。例えば人権組織は、「バシール大統領が何をしているのか知らないスーダン人」というような報じ方をする。
状況は非常に複雑で、だからこそ、正しい情報を伝えて欲しい。
PeaceとJustice、どちらが優先なのか。問題を複雑化したのは我々ではないのか?我々のなすべきは、シンプルに、苦しんでいる人を助けることじゃないのか?
これに対して土井氏、人権を侵害されている人の中には、その境遇と闘っている人*5がいる。人権団体は、彼らと共に活動をしている。
人権問題というのは、聞きやすいものではない。そのためか、放っておけば無視されてしまう。しかし、人権を守ることは、国家の義務である。法を犯せば裁かれる、世界には、その当たり前が通用しないところがある。こうしたことに声を上げていくことが、人権団体の役目である。
こういった活動は、スーダンに限らず、どこの国に対しても行っている。私の所属するHRWはアメリカのNGOだから、アメリカに対する批判が最も多い。