戦争のスイッチ
日本のスイッチをご存知だろうか。
簡単に言ってしまうと、携帯電話を使ったアンケートである。
毎週簡単な2択のアンケートが8つ用意され、翌週にその結果が出るというものだ。結果は毎日新聞紙上にも掲載されるものの、回答は携帯電話からしか行えない。この僕らの持つ携帯電話をスイッチに見立て、それを押してもらうことで日本を捉えようという、ピタゴラスイッチの佐藤雅彦研究室のプロジェクトである。
僕も毎回回答しているのだが、今日はこの結果に驚いてしまった。以下がそれである。
2.日本を狙うミサイル基地に直接攻撃できる手段を
・持ってもよい…51%(21140人)
・持つのは反対…48%(19861人)
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/etc/switch.html(2006/7/24の記事より)
アンケートが行われたのが先週の月〜水(7/17〜19)で、日本の軍事に関するものとしては、7/5に北朝鮮がミサイル実験をして以降はじめて目にする。
新聞の世論調査は各新聞社のバイアスがかかっているだろうが、これにはそういうのもないだろう。そう考えると余計にリアリティが感じられる。
当たり前のことだが、戦争は遠くからミサイルをボンボン打ち合って、上空から爆弾をばらばらと撒いて終わり、ではない。北朝鮮に上陸し、平壌から金正日を追い落とし、その後の治安を回復せねばならない。それは、今のイラクを見ればよくわかる。
イラクどころではすまない。イラクはアメリカまで届く大量破壊兵器を持っていなかったが、北朝鮮は持っている。日本海の上をミサイルが飛び交うことになる。付け焼刃の装備でそれをはじめれば、日本国土にも被害は出るだろう。圧倒的な軍事力を持って行えば、日本は無傷で北朝鮮にだけ被害を与えることが出来るかもしれないが、そのとき北朝鮮は、イラク以上の地獄絵図となるだろう。
しかもそれは、まだ戦端でしかないのだ。その地獄絵図の中に、日本の自衛軍が足を踏み入れる。そこで、イラクでアメリカ兵がやったことを、今度は自衛軍が行い、イラクでアメリカ兵がやられたことを、今度は自衛軍がやられる。
現役自衛隊24万人で、100万人の北朝鮮軍に立ち向かうはずも無いから、自衛軍はそのまま自衛隊がシフトするわけではなく、新たに多くの人が徴兵される。
上記のアンケートの結果は、ノドンに狙われたら怖いから、そこを先に叩ける装備をしておこうという、ただそれだけのことだろう。しかし、どちらかのミサイルが日本海を越えた場合、上記のところまで事態は止まらない。自分たちが徴兵され、北朝鮮の地を踏むことだって、大いにあり得る。
自分たちが戦場に出て殺し合いをする。その可能性をリアリティを持って捉えている人はどれだけいるだろうか。
「もし戦争が起こったら国のために戦うか」。「世界価値観調査」における、日本のこの質問に対する回答は、「はい」が15.6%で参加国中最も少なく、「いいえ」は46.7%で2番目に高い割合であった。
この「はい」の中でも、リアリティを持って答えている割合となると、さらに小さくなる。この調査が行なわれた2000年以降、北朝鮮による2度のミサイル実験があり、日本人の危機感も増したが、しかし自分が従軍するところまで思い至る人というのは、やはり少ないだろう。
かく言う僕も、戦争中の日本で生活しているというところまでは、ひどい絶望感をともなって思い描くことがあるのだが、自分が従軍するというのはまったく想像できないでいる。
このリアリティのなさと、先の日本のスイッチの結果、これを合わせて考えると恐ろしい。
要するに日本人は、それが何を意味するのか、自分にどう影響してくるのかを十分に考えぬまま、恐ろしい事態へむけた選択をしかねない。そういうことが現れているのである。戦場へは行きたくないと思い、戦争へのリアリティも持たぬまま、開戦のスイッチを押す、そういう事態が怖いのだ。
来年の総選挙ではきっとそのような事態となる。安倍自民党への一票が開戦のスイッチとなり、それは多くの日本人によって押されるだろう。