映画『ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷』2/14トークイベントレポート

ゴレ島から奴隷と共に拡散していったアフリカ音楽は、ブルース、ジャズ、ゴスペルといったブラックミュージックとなって発展した。ブラックミュージックのルーツを辿ろうとすると、奴隷の歴史を避けては通れない。ユッスー・ンドゥールは、この2つのテーマ、ブラックミュージックのルーツと、奴隷の歴史に、真摯に向き合うロードムービーを作り上げた。
2009/2/14に日本で公開された『ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷』、その初日は上映に先駆けてトークイベントがあった。ゲストは音楽評論家のピーター・バラカン氏と、アムネスティ・インターナショナルの日本事務局長、寺中誠氏。アムネスティは人権を守る活動を行っているNGOだ。


映画はセネガルのゴレ島からはじまる。
The Point of No Return。この島は、かつてアフリカの奴隷貿易の拠点であり、アフリカ各地から奴隷が集められ、この場で取引された後、世界各国へと売りに出された。
ブラックミュージックは奴隷とともに世界に拡散し、行き着く先の文化に影響を与えてきた。300年続いた奴隷貿易の中で、当初はセネガルなどの西アフリカの国々から調達されていたが、次第にコンゴアンゴラなど中央アフリカからも売られてくるようになった。西アフリカはサバンナ気候、中央アフリカは熱帯気候であり、その違いが音楽性の違いにもなっている。このため、奴隷を輸入する側は、時期によってさまざまな影響を受けることになった。


アフリカ奴隷貿易の発端は、子供の人身売買であった。貧しい家庭は子供を食わせられず、そのまま餓死してしまうよりはと、裕福な世帯に子供を売った。子供が行った先で食べていけるように、そして少しの日銭のために。
そこに企業が入ってきて、奴隷が産業化した。西インド会社などがそれだ。


売られてきた黒人は、アメリカでの扱いもさまざまだった。広場での集会、楽器演奏が許された人々がいる一方、英国系の奴隷は、音楽、楽器を禁じられ、歌は教会でのみ許された。
当時教会は、黒人専用のものがあった。そこで歌われるのは当然賛美歌だが、黒人教会では黒人霊歌の節回しで歌われた。それが今日のゴスペルにつながる。


アフリカ国内にも奴隷貿易があった。南部アフリカは、もともと多くの人々が暮らす地域ではなかった。白人の入植者が入った際、原住民だけでは労働力が足りず、アフリカの他地域から奴隷を買い付けた。アパルトヘイトが生まれた背景には、このようなことがある。


ブラックミュージックというと、奴隷解放運動や、公民権運動を思い出しがちである。それは、ある時期まで、アフリカン・アメリカンが自分達の歴史を恥じていたことに由来する。彼らは、自分達の先祖が、貧しさのため奴隷として売られてきたことを恥じていた。
それが一時期から、アフリカ系に誇りを持つ文化に変わった。黒人であることを誇りに思い、アフロヘア、ダシキと呼ばれるアフリカ系の服が流行する。
ガーナで行われた音楽祭を記録した映画「Soul to Soul/魂の歌」では、アフリカを訪れ感動するアメリカ人ミュージシャンが描かれている。


他の国々と違い、アフリカは"アフリカ"でひとからげにされることが多い。
近く、アフリカ各地の音楽を紹介する本が出版される。そこで紹介される名盤の数は、実に700枚。音楽評論家であるピーター・バラカンさん「驚いた。勉強してきたにもかかわらず、自分の知っているのが極々一部であることを思い知らされ、また一から勉強だ」。
アフリカは広大で、自分達はその一部しか知らない。

件の本は、『ポップ・アフリカ700』荻原和也著
2/21 渋谷シアターN先行発売、2/28 一般発売


奴隷は未だに存在する。イベント当日はバレンタインだったこともあり、アムネスティの寺中氏は、コートジボアールのカカオ農場で働かされる奴隷について語っていた。これについては以前別の記事で触れた。
バレンタインに読んでもらいたいチョコレートの話 - フランシーヌの場合は


ピーター・バラカン氏は語る。「奴隷制がなければ、アフリカン・アメリカンの文化は無かった。アフリカン・アメリカンの文化が無ければ、当時のアメリカには文化と呼べるものは何も無かった。決して奴隷貿易を肯定するわけではないが、それが今の音楽文化を生んだと思うと、複雑な気持ちになります。」


映画の中でゴレ島を案内する老人。ゴレ島に住み、そこで歴史を奴隷の歴史を人々に伝える語り部は、先週の金曜日に亡くなったのだそうだ。トークイベントの最後で、彼に対する追悼の意が捧げられた。


ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷』シアターN上映情報
http://www.theater-n.com/movie_youssou.html
来週2/21,22にもトークイベントがある。


映画本編の観想は、こちらに譲る。
ユッスー・ンドゥール 魂の帰郷 - the invisible child