販売×購買

FASIDの研修、NGOディプロマコース3学期「NGOの組織強化」を受講している。今回は「販売×購買」というテーマで、 FAR EAST 社長の佐々木敏行氏を講師に迎え、輸入品の商品開発、マーケティング、販売の、実例、成功例、そしてそこから成功のためのエッセンスを教わった。
FAR EASTは、アフリカで商品開発して、輸入・販売をしている会社。コンセプトは、ナチュラル、オーガニック、そして歴史、ストーリーを持った商品。アフリカの各地に出向いて、そこで出会ったものを商品化する。日本市場に出せるように、現地の生産体制を整える。
商品の例としては、

  • エジプト デーツのドライフルーツ
  • 世界各国の塩
  • ケニアのシングルマザーが作る、一人一人デザインのちがうセラミックビーズ

製品を開発して貿易を行うのは、なんだかネオアトラスみたいだ。
社員11人の小さな会社ながら、その商品は伊勢丹表参道ヒルズで大いに売れ、また三越お歳暮カタログの企業が何千万も出して買うスペースに、招待でタダで載せられたりしてる。
FAR EAST BAZAAR
以下、講義で勉強になったところをまとめる。

購買の現場を徹底研究、マーケットの需要を見極める。

製品開発をしていると、客をユーザーとして捉えがちで、如何に満足して使ってもらうかというほうに意識が行く。しかし、いくらいい物を作ったとしても、ユーザーになってもらうまでには分厚い壁がある。
物を売るには、まず物を売る現場を見ることだ。*1この段で、机上の理論は役に立たない。
どういう客層が、どう時間をかけて商品を選んでいるのか、棚の配置はどうなっているのか、コンビニで棚左上のゴールデンスポットにはどんな商品があるのか。
たとえば食品なら、伊勢丹地下1階を見るのがいい。今ほかの百貨店はこぞって伊勢丹地下1階を視察し、そのエッセンスを盗もうとしている。

商品化とパッケージ、差別化し、一歩抜きん出る。

手を伸ばしてもらうためにはパッケージがとても重要。
パッケージをデザインするとき、通常色は大日本印刷の色見本から選んで指定するが、佐々木さんはわざわざ出向いて色作りに立ち会う。そうして、自分の思い通りの、色見本にない色ができる。そのパッケージが売り場に並ぶと、他のどの色とも違うので、人目を引く。

個人的な考え:NGOに当てはめたらどうだろう。
いくら良い活動をしてても、それが目に留まらなければ支援してもらえない。
良い活動を魅力的に伝えるパッケージ、という考え方。


パッケージの写真は、商品の世界観を伝えるものに。

これはエジプト産デーツ(ナツメヤシ)のドライフルーツのパッケージ。
昔から、砂漠を渡るときには、腰袋にデーツを詰めていた。というような情報の詰まった写真ではあるが、そこにあるコピーは

それは
神の贈り物だという

これだけ。

あえて説明不足に。

コピーは3,4行まで。パッケージに惹かれ、そこが説明不足だと、顧客は主体的に意味を読み取ろうとする。そして、販売員に質問をする。質問した人は高確率で買っていってくれる。
コピーには心に残る言葉を選ぶ。参考になるのはビレバンのポップ。
ヴィレッジヴァンガードのポップのこだわりに迫る!! (2006年7月30日) - エキサイトニュース
魅力的なコピーだと、顧客がその商品を人に伝えるときに、その言葉を使ってくれる。
思い入れがあるのは商品を作ってきた自分たちだから、自分たちでコピーを考える。

ディスプレイにこだわるワケ

ディスプレイに世界観を築くこと。
例えば、素材(塩なら塩の塊とか)を山にしておいておく。どんな説明書きよりも、素材は雄弁に語る。実に来た人は触ったり、なめたりして、そこに主体的に関わろうとする。
例えば、自分のブースにバザールを作る。本物のアンティークを使うなどして、とことんリアリティを追求する。
こういうことをすると人が集まる。
展示会では、無用にブースを広げず、さらに展示を低い位地に置く。これで前に行かないと見えなくなり、なんだなんだと人が人を呼ぶ流れができる。
足を運んだバイヤーから、このままのディスプレイを百貨店に持ってきてくれと言われる。百貨店も、人を呼べる商品、飾れる商品を求めている。

オピニオンリーダーに広めてもらう

三越のギフトカタログ。お歳暮などに利用するのは50代の方が多い。ステータスのある方がそれをお歳暮に使うと、商品にその方のお墨付きがもらえたようなもの。
Earth Day Marketは、ナチュラルフードやオーガニックフードに関心が高く、オピニオンリーダー的な客層であり、売り上げ自体は低いが付加価値が高い。
さくらのレンタルサーバ
Earth Day Marketには雑誌の取材が来ることもあり、そこで取り上げられるのもおいしい。また、モデルさんなどが購入してくれると、雑誌の私のオススメみたいなコーナーで取り上げられることも。
掲載してもらう雑誌の選り分けや、掲載の仕方への口出しをすること。

個人的な考え:NGOにはオピニオンリーダーになりうる人がたくさん眠っているのでは?
先週の記事のTipsに書いた「ストーリーテラーを立てる」と同じく、メディアへ積極的に露出していく姿勢があるといいのでは?

NGO業界にオピニオンリーダーが何人か立てば、その人たちが別のNGOを紹介するっていうこともできるのではないか。

取引先、販路の選定

途上国の生産者のことを考えると、たとえ売れても、一瞬のブームで終わっては困る。細く長く売るための戦略が必要になる。
そのためには、売り急がないように気をつけること。どこにでもホイホイ出してると、「こんなところに置いてるなら、ウチには置かないよ」ということがある。
セレクトショップや百貨店など、商品の価値を高める販路を選ぶ。
バイヤーとの関係を重視する。バイヤーに商品に共感してもらえれば、その関係は長く続くし、バイヤーも思い入れたっぷりに売ってくれる。
陳列の乱れには注意。これを防ぐためにも、バイヤーの購買意欲をそそることが大事

販売にあたって気をつけること

  • トレーサビリティ

途上国では、その必要性がなかなか理解してもらえない。「俺が、今、ここで作ってるじゃないか。それ以上何の証明がいるんだ。」

  • 品質安定

顧客は、前に買ったものと同じ物を求める。違う物だとがっかりする。これも途上国だと難しい。「同じ物を使っていつも通り作ってるんだから同じだよ」

欠品しないこと。
限定品的な魅力を作るため、戦略的に欠品期間を作ることもある。2ヶ月間ブランクを空けると、入荷したときにブワーッと売れる。その間に問い合わせを入れてくれた人は、入ったら必ず買ってくれる。

  • 取引条件

強気に!負けそうになったら生産者のことを思うと、引き下がれない思いが強くなる。

  • 利益の確保

大手は薄利多売でやっている。生産者も製品化の工程でアウトソーシングしている先も販売店も、もちろん自分たちも幸せになるためには、利益の確保が大事。商売が続かないとしょうがない。

  • 代金の回収

短い期間で回収するためには、販売店と直接取引すること。もしくはネットで消費者と直接取引。

なぜフェアトレード・オーガニックと大きく謳わないの?

かわいそうだから買ってあげよう、いいことだから買おう、という売り方は、セレクトショップや百貨店では避けられる。なにより顧客が継続して買ってくれない。自分が魅力を感じ、選んだ商品は、思い入れも強いし継続して買ってもらえる。そのため、まずは純粋な商品力で勝負する。フェアトレード、オーガニックなどは、リピートしてもらうための要素になる。
日本のオーガニック市場はまだまだ成熟していない。オーガニックというだけではそんなに売れず、今は売る側の満足でしかない。しかし今後は大きくなるだろうから、そこに早めに手をつけておくのは大事。
日本のオーガニック認証の未整備。オーガニック認証は各国が基準を持っており、それぞれの国の基準が格付けされている。たとえばフランスの認証は、日本のJAS認証より格上である。しかし日本では、たとえフランス認証を持っている商品でも、JAS認証を取っていなければオーガニックと記載して売ることができない。

現地のクオリティコントロール

まずは日本の市場を徹底的に見せること。ことあるごとに紹介し、機会があれば連れてくる。
品質上問題が見つかれば、取引停止になるほどキツく指摘する。
商品開発の段階で、日本市場向けのクオリティにできずに断念することはとても多い。開発を始めた商品の7割ぐらいがそうなる。
やって見せ、できるところから始めさせる。それに対してインセンティブをつける
品質管理には大手以上のことをやる。

Tips

  • ターゲットは25才〜49才の女性。物がわかっていて、購買力があって、トレンドを作れる層。
  • バイヤーは50代男性が多い。しかし買うのも、流行を作るのも女性だ。
  • 「女性は女性に馬鹿にされないものを買う」
  • 無料サンプルはNG。ほとんどの人は使わず捨ててしまうし、買う人をサンプルだけで帰してしまう場合がある。*2
  • 展示会を活用し、販路を開拓する。
    • 展示会は、見にくる人が主体的に選んでくれる。
  • 商品に、主体的にかかわるための仕組みを設ける。
    • スパイス袋の口を留めるクリップ、塩を引くミル。
  • 現地に、日本でどう売られているか、そのパッケージを、生産者に見せる。日本での評価を伝える。そうすると、生産者は非常に喜ぶ。
  • 映像は、見る側が受身になってしまうのでNG。主体的にさせること。
  • webを活発にしすぎると、店舗に人が集まらなくなる。そうすると、販路が増えにくくなる。

佐々木さん来歴

27歳までバックパッカーをやっていて、各国のいろんなものを知った。それを日本に持ってこようと思ったのが、貿易行を始めたきっかけ。
貿易業は、たいてい専門商社がやっている。その商社が、自分の専門の中で良いものを選んでいる状況だった。新たなカテゴリをつくったり、カテゴリをまたがって仕事をするようなところはなかった。
社員は11人で、佐々木さん以外全員が女性。そのうち途上国に足を運んで商品を開発するのは4人。
社内でやっているのは情報、企画、プロモーション。それ以外の製造、パッケージングはアウトソーシングしている。
アウトソーシングで関わってくれた人たちが「ウチの商品」と自慢に思ってくれる。そう思えるほど密にコミュニケーションをとりながら、ひとつの商品を作り上げていく。
仕事はほとんどがトラブル対応。問題処理能力が高くなる。
商品選定の決め手は「ワクワク感」。

最後に

佐々木さんは、繰り返し、利幅を取ることの大切さを訴えていた。それは、商品に関わる人すべてが幸せであるように。ひとつの商品には、現地の生産者から、日本の製品化工程を担うアウトソーシング先、百貨店のバイヤー、顧客、そして自分たちがいる。そのすべての人が幸せになることを、佐々木さんは目指しているのだそうだ。
この考えにはとても共感するし、さらにそれをほぼ実現できているように見えるのはすごい。

全体を通して、ちょっと疑問
日本のNGO市場、寄付市場はオーガニックと同じで、まだまだ成熟していないのではないか?
「買いたいと思われたものが売れる」どころか「いいものが売れる」時代までも到達していないのではないか?
成熟した市場に切り込んでいく知恵よりも、市場と共に成長していく、新規分野のベンチャー企業の経験のほうが、NGOには有用なのではないか?

*1:NGOに当てはめると、この現場はどこになる?寄付してる現場?NGOの集まるイベント?

*2:その場でお試しはどうなんだろう?体験したら満足してしまう?