格差と広告:「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)」を読んで解消されなかった二つの疑問(2/2)
解消されなかったもう一つの疑問は、広告が収入源となることについてだ。梅田さんは本書の中で、Googleのビジネスが広告であるから、その本質を語る前に聞いてもらえないということを嘆いていた。僕は本書を通読したが、それでもなお広告というところが引っかかる。
それは僕がある理想を持っているからで、その理想とはGoogleやFlickr、mixiやはてななど、新しい価値を持ったwebサービスは、その価値そのものでお金を稼ぐべきというものである。こう考えているので、付加価値である広告が主な収入源となるのは健全ではない。
広告で埋め尽くせ!:このままGoogleが拡大した場合の社会を想像する
今後ネット上の情報、Googleのサービスを利用したコンテンツが増え、またGoogleのシステムがより良くなるにつれ、Googleの生み出すものの価値はどんどん大きくなる。それにともなってGoogleが費やすリソースもどんどん増え、その分回収しなければならない利益も大きくなる。
現状のままでいくと、Googleは利益回収のため広告事業をどんどん拡大しなくてはならない。その先にある社会はどのようになるだろう。
それを考える前段として、まずGoogleの広告とはどういうものか。
具体的に言えばGoogleで検索した際右側に現れるAdWords広告であり、いろいろなブログに見られるAdSense広告で、それは普段から目にしすぎて意識から外れてしまうほどである。
これらはどういうビジネスモデルなのか。梅田さんは以下のように説明している。
グーグルは2005年2月のアナリスト・ミーティングで、自分たちはロングテール追求会社なのだと宣言した。アドセンスの達成とは、広告主のロングテール部分と、メディアのロングテール部分をマッチングさせて、両者にとってのWin-Winの関係(双方にとって満足のいく関係)を築いたことである。広告主のロングテール部分とは、これまで広告など出したことがなかったスモールビジネスやNPO(非営利組織)や個人のこと。そしてメディアのロングテール部分とは、いままで広告など掲載したことのない極小メディア(無数のウェブサイト)のこと。つまり、グーグルのロングテールとは、広告ということに過去に一度も関与したことのない人々という未知の可能性に満ちた新市場の追求に他ならない。
同書:P.P.106-107
これについて、さらに詳細な説明を以下のサイトで見ることができる。こちらの図がとてもわかりやすい。
Web2.0時代のお金・情報の流れをつかむ - @IT
では、これが拡大するとどうなるか。
メディアの側に絞ってみると、そのロングテール部分にどんどん広告が入り込むようになる。それはもう梅田さんも以下のように予測されている。
ではグーグルがこのGメールを巡ってどんなビジネスを構想するのか。グーグルが考えるのは、「個々人の電子メールの内容を自動的に判断し、最適な広告へのリンクを電子メールに忍ばせる」というビジネスである。
(中略)
こんな全く独特の思考回路で、個人の電子メールというプライベート空間までを広告事業の対象にできないかと、グーグルは発想するのである。
同書:P.63
この方向に想像を膨らませると、思い出されるのがSF映画『マイノリティ・リポート』のワンシーンだ。
その世界では網膜が個人IDの役割を果たしており、建物の設備は網膜をスキャンすることで、その人にあわせた動作をする。入っていい人だったらドアを開ける、などというふうに。その世界でも駅の通路には広告があるが、それは網膜スキャンによって個人を特定し、その個人にあった映像を目の前の中空に次から次へと表示する。
ここまで極端なことにはならないだろうが、しかしPCの隙間は徐々に広告で埋まってゆく。スマートフォンが普及すれば携帯も、デジタル家電が普及すれば家電も、どんどん侵食されてしまう。
さらに連想されたのが『1999年のゲーム・キッズ (幻冬舎文庫)』の中の一話で*1、それは広告ではなくテレビについてのSFだったが、その世界ではテレビのチャンネル数が激増して、いつでも見たいものが見られるようになった。そうした中で大きな視聴率を取る番組が現れたが、それは2時間暗闇と無音を放送する番組で、実はその世界のテレビからは電源スイッチが消えてしまっていたのだった。そういう話だった。なぜこの話を思い出したのかといえば、望むかどうかにかかわらず、常にメディアに晒されてしまう世界の話だからである。それがテレビであれ広告であれ、メディアに晒され続ける世界は嫌だ。
次の10年ではどう稼ぐか:方向転換したGoogleが稼げる世界を想像する。
それではGoogleの広告ビジネスがこのままどんどん拡大するのかと言えば、そうでもないかもしれない。同書では、広告事業拡大の限界も暗示されている。
しかも加えて大組織にとって脅威なのは、これまで無視して軽く見てきたロングテール追求者が産業全体のルール破壊者となり、大組織が依存する「恐竜の首」部分の上顧客も徐々に着々と奪いつつあることだ。
同書:P.112
新しい市場を開拓し、そこから利益を得るだけではなく、既存の市場からの顧客をも獲得している。うがった見方をすれば、新市場拡大の鈍りを予測して、既存の市場にも手を出したのではないか。こうなると広告ビジネスの拡大には限界が見える。
以下のニュースも、Googleの広告ビジネスの限界を示す。
米国時間2月28日に、Googleの最高財務責任者(CFO)が「あとは有機的な成長くらいしか売上拡大の余地がなく、今後はトラフィックを増やし売上につながるビジネスを成長させることが必要になる」と発言したことを受け、同社の株価が一時急落した。
GoogleのCFO、George Reyesはこの日の午前中に、Merrill Lynchが主催した投資家向けのイベントで講演し、「われわれの成長率が四半期ごとに鈍化していることは明らかだ。われわれは今後ビジネスを売上につなげるための他の方法を見つけなくてはならない」と語った。
グーグルが抱えるこれだけの問題--成長減速は「想定内」か - CNET Japan
さて、上記の記事で、Googleは「売上につなげるための他の方法」を模索すると言っている。更なる広告収入を得るための新たな方策か、広告以外の何らかで利益を上げる方法、この二通りの読みかたができる。前者の場合、社会がどうなるかは上で書いた。では後者の場合はどうなるか。
ということで、web2.0の社会ではどういうふうに稼ぐのかという事を、オープンソースをメインに論じようと思ったのだが、考えとして近そうな記事を見つけた。
http://hotwired.goo.ne.jp/original/fujimoto/060314/index.html
読んでみて、考えに際があればまた書く。どうも2回で終わらせるつもりが、うまく締まらない。
*1:どの巻に収録されていたかは忘れてしまった