現地責任者が血の通った言葉で語る国際協力の現状。プラン・ジャパン フォーラム 「国際NGOという職場を選んだ私の理由〜途上国に関わるということ」を聞いてきた。

プランは、子どもの人権をメインターゲットとした、海外の大手国際協力NGO。資金規模は700億弱。プラン・ジャパンはその日本事務局で、国内への広報、資金調達などを行なっている。
今回参加したフォーラムは、そのプランの西アフリカ事務所で副所長を務める日本人、高木美恵さんが、横浜で開かれるアフリカ開発会議(TICAD)に合わせて来日し、それに合わせて催されたものである。
イベントのメインは高木さんの講演である。



高木美恵さん(プラン・ジャパン サイトより)

「子どもは未来の社会のメンバーではなく、現在のメンバーなんだ」

プランに所属する高木さんは、やはり、「子ども」というところにこだわりを持って活動されている。
彼女が現地で活動する際、そこの大人に何よりも伝えたいこと、それは、「子どもは未来の社会のメンバーではなく、現在のメンバーなんだ」。


ミレニアム開発目標は、国際協力を行なう上で大きな柱になっている。
(ODA)ミレニアム開発目標(MDGs) | 外務省
高木さんは、これを自分の言葉に置き換え、自分の活動目標というものを明確にしている。

  • 子どもが死ななくてもいい理由で死なない。
  • 女の子も男の子も、分け隔てなく成長に必要な栄養、教育、刺激を受けて育つ。
  • 子どもも社会の経済文化を育むメンバーと認識されて、きちんと保護される。


この子どもへのこだわりはどこから来るのか。
途上国でもそうだし、今の日本でもそれは変わらないのだが、子どもの問題が話し合われるとき、その場に子どもは参加できない。「私たちの話をしているのに、なぜ参加できないの?」子どもがそう思うのも当然だ。
子どもを入れないのは、子どものことをわかっていると思い込んでいるからだ。大人はみな、子どもだった経験がある。自分も経験していることだから、子どものことはわかる、そう思っている。
しかし、高木さんはそれは違う、子どもをなめるな、と言う。
「子どもの頃からずーっと、日記をつけているんですよ。で、大人になって、あるとき11歳の頃に書いたものを読み返してみたんですね。そうすると、今よりも色んなことを考えている」
大人になったからって、子どもの頃の自分よりたくさんの物事を考えているわけではない、子どもは自分たちより余計に考えていることがある、それは自分の日記が証明している。
「子どもの視点を中央に持っていく、それをプロ化したい」 というのは、高木さんの活動目標のひとつだ。もとより、なめられる事に反発した子どもだった高木さんは、あらためて言う。
「子どもをなめるな」


こと途上国に行くと、子どもの人権というのはますますひどい状況になる。単なる労働力、親の道具、そういう認識の親たちに、まずわかってもらわなければならないのが、先のメッセージだ。もう一度書く。
「子どもは未来の社会のメンバーではなく、現在のメンバーなんだ」。

乳幼児死亡率、最後の20%、最初の80%。アジアとアフリカでのターゲットの違い。

高木さんは現在の西アフリカでの活動以前、アジアを拠点に活動されていた。アジアの途上国はアフリカより開発が進んでおり、人権や貧困という面でもよりよい状況にある。
下図は、国別の乳幼児死亡率を表した地図である。乳幼児死亡率はIMR、出生数1000人当たりで5才までに死亡する人数で表される。IMRが100の国では、1000人生まれる毎に5才までに100人が死ぬ、ということだ。

wikipedia 乳幼児死亡率(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Infantmortalityrate.jp)より
同じ乳幼児死亡率を下げることをめざしたプロジェクトでも、対象国の開発の度合いによってターゲットが変わってくる。

地域 アジア アフリカ
乳幼児死亡率(現状) 100 200
乳幼児死亡率(目標) 0 100

この場合、プロジェクトを策定する上で考えるべきことは、次のように異なる。

  • アジア :最後の20%に手が届くか?
  • アフリカ:最初の80%に手が届くか?

たとえば、アフリカで地域医療を有料化するプロジェクト。現状は、国からの資金で医療制度を維持する建前だが、実際は金が来ず、医師のモチベーションも下がり、薬も満足に与えられない。一方で志の高い医師が、善意で無料で診療する医師もいる。
そんな状況で、医療制度を立て直すため、有料化する。医療のための資金が住民から集まり、地域で医療制度が回り出す。最初の80%が医療を受ける仕組みができる。一方で、今まで善意の診療の恩恵にあずかっていた極貧しい人々からは、医療を受けるチャンスを奪うことになる。最後の20%は救われない。
もちろん、一気に最後の20%までカバーできるのがよいに決まっているが、援助が需要にまったく間に合っていない現状、限りあるリソースで、いかに効率よく活動できるか、そういうことを考えなければならない。

アフリカ国内の格差、不快を不快と知ること

いくらアフリカと言えど、都会にはビルが建ち、空調の効いたオフィスがある。一方で、未開の農村には、エアコンどころか、医師がいない、病院がない、学校がない、そんな世界が広がっている。
途上国の国内の格差、それは先進国のそれとは比べ物にならないほど過酷で、格差に苦しむ地方からも是正の声が上がっている。プランは、中央の金を地方へ流す、地方で金を作る、この二つのアプローチで、格差の解消に尽力している。
現地事務所の副所長という役職に就いている高木さんは、都会と農村、この二つの地域を行き来しながら仕事をしている。現地の過酷な環境からすぐのところにある空調の利いたオフィスでの仕事、高木さんは、この時間が重要なのだと言う。
「快適な生活をしていないと、不快な生活のおかしさに気づかなくなります」
長く途上国の農村に身を置くと、悪い意味でそれになれてしまう。それが普通になってしまう。現状の何を変えれば生活が改善するのか、そういうことに敏感でいるためには、不快な生活は不快なんだという意識が大切なのだ。

現地の人を発掘するエンパワーメント

格差の上の方を、少し詳しく見てみよう。
都会の裕福な家庭に生まれた子ども。十分な栄養と教育を与えられ、大学を卒業し、都会のきれいなオフィスビルや、海外で働く。英、仏語ができ、PCも使えるエリートとなる。
プランの西アフリカには、12カ所の事務局、1210人のスタッフがいる。そのうち、10カ所の所長はアフリカ人で、スタッフも現地人が97%を占める。
これは、効率的な援助という面で非常に重要なことだ。現地の活動に先進国のスタッフが多くなると、その分だけ維持費が余計にかかる。先進国のスタッフは高い。同じ仕事ができるのなら、現地スタッフにやってもらう方がいい。このように、現地スタッフや、さらには現地住民に力をもたせることを、エンパワーメントと言う。
このスタッフになれる現地人は、前出のエリートたちである。都会の快適なオフィスと十分すぎる給料。プランで働くエリートたちは、それらのものを投げうってプランに来ているのである。
この高い志は非常に嬉しい一方、この過酷な現場を離れてしまうことだって往々にしてある。志のまま働けるよう、十分なケアが必要なのだ。


「がんばっていれば、誰かが見つけてくれます」
と、高木さんは言う。自身も上司に見出されたからこそ、今の仕事ができている。今度は自分が、それをやる番だと言う。
現地スタッフにも様々な人がおり、会議で上手く振る舞う人もいれば、そういうのがまったくダメだけれど、いざ現地に入ると輝く人もいる。
「私が求めているのは後者。現地で子どもと話せる人を見つけ、チャンスを与えたい」

私たちへのメッセージ「世界を変えられないというのは、あなたたちのエゴです」

ここであらためて自分たちを見ると、日本人は非常に恵まれている。教育だけとって見ても、日本の高等教育進学率は75%で、望めば誰でも手が届く制度が整っている。一方西アフリカを見ると、ほぼ全ての国の進学率が、20%を下回っている。
その一方、日本は国際協力の面では遅れていると言わざるを得ない状況だ。高木さんは、現地での仕事の合間に日本に戻ると、必ず講演会に引っ張り出されると言う。
「他の国出身の同僚は、全然そんな事ないんです。それは、彼らの仕事が当たり前のものとして認知されてるから。めずらしくないんですよ」
私なんかをめずらしがっているのは、まだまだ遅れている証拠なのだ。


最後に高木さんは、ビル・ゲイツの言葉を聴衆へのメッセージとして選んだ。
「生まれながらの才能、大学教育、数多いチャンス、これらを与えられながら、世界を変えられないというのは、エゴです」
きびしい。しかし、先進国に住み、当たり前にこれらを与えられてきた私たちには、この自覚が圧倒的に足りない。

感想

子ども、というものを再発見した気分である。
昭和女子大の学生が主な聴衆だった今回の講演会は、特別難しい話、先進的な話があるわけではなく、活動の概要と、高木さんの個人的な体験に終始した。僕にとっては新しく勉強になるようなトピックはほぼなかったが、しかし有意義なお話だった。
それはやはり、実際に現地で活動している方から、直接お話を聞く、ということが大きい。本で聞きかじったエンパワーメントという言葉が、高木さんのお話を通して血の通ったものになってきた。
そのようにして聞いた子どもの人権の話も、わかった気になっていたところに、そうじゃないんだよと入ってきた。
ゲイツの言葉に打ちのめされるとは思わなかった。たいへん痛いところを突かれた。


http://www.plan-japan.org/home/topics/080524forum/index.html