飯田哲也『北欧のエネルギーデモクラシー』4章頭までのまとめ

北欧のエネルギーデモクラシー』に書いてあった、北欧(特にスウェーデンデンマーク)のエネルギーに関する取り組みが、あまりに衝撃的だったのでこちらにまとめる。
最も衝撃的だったのが、原発撤廃の国民投票と、地域熱供給の普及。
クールビズとかやって偉いなと思っていた自分が馬鹿でした。


写真は、全く関係ない、旭川の春光台公園、通称「寄生木の森」です。
それでは、以下にまとめます。

  • 日本のエネルギー政策
    • 地域熱供給が取り組まれていない*1
    • 産業界へのエネルギー供給対策だけを優先*2
    • ダムや原発→日本の地域が本来持っていた文化的・社会的な豊かさの破壊*3
    • 温暖化対策*4
      • 自然エネルギー省エネルギーが軽視される
      • 原発増設を柱に据える(国民の間で異論が多い)
      • サマータイム(効果が疑問視される)
      • 全体としての包括性に欠けている(完了による縦割り主義のため)
      • 悪しき「縦割り官主主義」の産物
      • 温室効果ガスの削減目標達成は絶望視されている。
  • 具体的な取り組み
    • 「エコラベル」環境NGOスウェーデン自然保護協会(SNF)」によるプロジェクト。市場に大きな影響力を持つ。*6
    • スウェーデンの電力市場の自由化:新電気法:送配電網の分離。これを公正・透明に管理監督する仕組みを作り上げることに重点。これにより自然独占を防ぐ。*7
    • ストックホルム・エネルギー社(+SNF):「電気の種類を選ぶ」制度。*8
    • エコラベル電気は全体電気料の5%*9
    • スウェーデンの電力改革は、政策担当者の「手の外」に出たという認識。最初にどのような政策装置を埋め込むかが極めて重要。*10
    • スウェーデンの電力改革では*11
      • ネットワークの独立性と監視を強めることで、透明・公正な市場をデザイン
      • 環境的な外部費用を内部化する措置として
        • 炭素税
        • 電力生産税
        • 電力消費税
        • イオウ税
        • NOx(窒素酸化物課税)課徴金市場
      • 小規模分散型の再生可能エネルギーに対して、電気事業者に買い取りを義務づける
      • この透明・公正な電力市場の上に、グリーン電力制度が成立している
      • グリーン電力制度:市場の力を利用した再生可能エネルギーの新しい普及の仕組み
      • ×価格に対して合理的に振る舞う単なる「消費者」
      • ○自ら学習し、価格以外の多元的な価値を読み取る「市民」
    • 288全てのコミューン(極めて高い自治制をもつ:徴税権をもち、環境保全と健康維持への責任を有し、エネルギー、廃棄物、上下水道、公共交通を所管しているほか、環境と健康保護法、都市計画と建築法、化学製品法などといったいくつかの方の執行機関でもある。「補完性原理」もある。)が何らかの形でローカルアジェンダ21担当のスタッフと予算を持っている。*12
  • ベクショーでの取り組み
    • ベクショー:化石燃料ゼロを目標に掲げたコミューン*13
    • 当面の数値目標:2010年までに二酸化炭素の排出量を半減させる*14
    • ベクショーのローカルアジェンダ21*15
      • 再生可能な資源・エネルギーを利用すること
      • 天然資源を可能な限り効率的に利用すること
      • 様々な政治活動から発生する副資材は、再利用・再資源化すること
      • 生物多様性と生態系保全に努めること
      • 環境的に、あるいは健康に有害な物質は使用禁止すること
      • 社会的な環境の創造を含めて、生活環境を改善すること
    • 交通部門では2010年までに自転車交通を10%に引き上げる目標*16
    • 地域のエネルギー会社「VEAB社」:市が株式を所有し、市議会議員が理事を務めている。営利企業バイオマス燃料を用いたコージェネレーション、地域熱供給の導入を促進している。*17
  • 他の地域での取り組み
    • ルンド:大企業が多いため、アジェンダ21の活動も企業の自主行動に委ねざるを得ない。
    • ルンド市が株式を保有する「ルンド・エネルギー社」というエネルギー企業があり、電力供給と地域熱供給を行っているが、ローカルアジェンダ21にはあまり協力的ではなく、ルンドのアジェンダ21は若干の困難を抱えている。*18
    • ストックホルムのハンマビー地区の取り組み:すべてのプロセスにおいて、早期からの情報公開と、住民を含むあらゆる関係者の参加が考慮されている。*19
      • 地区内では全てエコラベル電気が使用される
      • バイオマス(木質系燃料)を利用したコージェネレーションからの地域熱供給が行われる
      • 地区内は自動車交通に代わって新設される「トラム(市電)」と「自転車」が交通の主役となる
      • 地区内に残る雑木林、海運に利用されてきた入り江は、自然ゾーンとして保護・再生される
  • スウェーデン原子力政策の歴史*20
    • 最近の世論調査では、原発閉鎖への反対が過半数を超える。*21
      • 失業率の高さ(10%近い)
      • 電気料金への影響
    • 電力ボイラー、電力ヒーターによって、「高品位」なエネルギーである電気が、「低品位」な熱に多く利用されている。→地域熱供給への転換によって、電力消費の削減が容易に可能*22
  • 用語
    • バイオマス:木材など生物性のエネルギー資源*23
    • アジェンダ21:「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット、1992年、ブラジル・リオデジャネイロで開催)にて採択された「21世紀に向けた人類の行動計画」。地方政府の役割を重視。*24
    • 補完性原理*26:多層的な問題領域間で、お互いにどのような関係を取り結ぶのかについての理念的な合意。大きく分けて、「消極的な補完性」と「積極的な補完性」という二つの側面がある。欧州連合(EU)の立憲原理との1つとして、地域主権の組織原理を明確に定めたもの。マーストリヒト条約の全文にも掲げられている。
      • 消極的な補完性:より大きな集団は、より小さな集団が自ら目的を達成できるときには、介入してはならない
      • 積極的な補完性:大きな集団は、小さな集団が自ら目的を達成できないときには、介入しなければならない
    • 熱電併給システム(コージェネレーション):発電と同時にその廃熱を利用するエネルギー技術で、「熱電供給」や「CUP」とも呼ばれる。

北欧のエネルギーデモクラシー

北欧のエネルギーデモクラシー

*1:P.9

*2:P.9

*3:P.9

*4:P.26

*5:p.10

*6:P.4

*7:P.12

*8:P.19

*9:P.22

*10:P.P.23-P.P.24

*11:P.24

*12:P.P.29-30

*13:P.26

*14:P.36

*15:P.P.33-34

*16:P.35

*17:P.37

*18:P.46

*19:P.51

*20:P.P.63-64

*21:P.82

*22:P.94

*23:P.6

*24:P.28

*25:P.53

*26:遠藤乾「重層化する政治空間―ポスト通貨統合の秩序像」孫引き