本音を引き出すインタビュー術と、和田流ファシリテーション術

FASIDの国際協力NGO向けのセミナーで、参加型開発研究所代表の中田豊一さんから、本音を引き出すインタビューの手法と、それを使ったファシリテーションの手法を学んだ。
国際協力における対人援助向けとして学んだが、実際このテクニックや考え方はあらゆる対人関係に役立つと思うので、こんなタイトルでシェアしたい。

相手の本音を引き出すインタビュー術

1.自分が質問が「事実」/「考え」/「感情」のうち、どれを聞いているのかを自覚する。

最初にして最大のポイントが、「事実」と「考え」の区別。以下の例を見てみよう。

  • a.どんな音楽が好き?
  • b.いつもどんな音楽を聴いているの?
  • c.さっきまで聞いてた曲は何?

これらはそれぞれ何を聞いているだろう。
答えは、a.が「感情」、c.が「事実」、そしてb.が「考え」だ。
b.は事実だろうと思うのだが、これがワナ。ここには回答者が解答を操作する余地が入る。自分でも経験があるんだけど、相手によって「くるり」と言ったりするのはそれだ。
このように、一見「事実」を聞いているようでも、実は「考え」を聞いてしまっていることが多々ある。それを事実と思っていると、いつまでたっても事実には近づけないし、その事実に基づく相手の本音は出てこない。

2.「なぜ?」 という問いはなるべく使わない。

これはまさに「考え」を聞く質問だから。
上記の通り、「考え」を聞かれると、回答者は操作する余地がある。すると回答者は、相手の期待に応えたい、自分の都合に合わせたいというような理由から、無意識に解答を変えてしまう。
これを意識して、できるだけ「考え」を聞く質問を避けることが重要だ。

3.できる限り「事実」について尋ねる。

相手の「見せたい自分」を避けて話を聞くには、事実を聞くしかない。
事実かどうかという判断は、その質問に「いつ」「どこで」が問えるかを考えるとわかりやすい。事実は必ずそれが言える。

4.相手の自尊感情(self esteem)を上げる。

自尊感情があがると、相手はオープンになる。質問の中で、相手が自信を持つような質問をすること。たとえば相手の得意な分野を教えてもらうとか。
ただ、これはお世辞ではだめ。お世辞はわかる。わかるけどうれしいのがお世辞。
こういう行動科学の知識は、インタビューやファシリテーションに非常に役に立つ。

5.相手の答えやすい一問一答を繰り返す。

上記の自尊感情を高める方法。回答者は、人の質問に正しく答えられるとうれしいし、間違った答え、期待に添わない答えをすることを恐れる。そこに答えやすい質問をすることで、相手はだんだんと自信を持つ。

6.仮説を立てる。

聞きたいことについて、こうなんじゃないかと仮説を立て、それを検証するように質問をする。細かい事実を積み上げる聞き方だと、話が変に流れて聞きたいことが聞けないという状態になりやすい。あらかじめ仮説を立て、それに沿うように質問を組み立てていく必要がある。

7.「感情」や「考え」を直接尋ねない。

もし聞きたいことが「感情」や「考え」でも、それを直接尋ねない。できる限り「事実」を尋ねる。これを積み重ねていくうち、回答者にはその「事実」に基づく「考え」や「感情」が溜まり、自然とそれを話し出す。
ここで話されることは、まちがいなく本音である。

インタビュー術を用いたファシリテーションの実例

上記のインタビュー術は、国際協力NGO「ソムニード」の創立時からのリーダーで代表理事である和田信明さんから、中田さんが学んだものである。
中田さんは和田さんを評して究極のファシリテーターと言う。和田さんが30分間インタビューするだけで、3年以上関わってきたNGOの引き出せなかった本音、リアリティがボコンと出てくる、そういうことを多々目撃し、それを何とか体系化しようとして和田さんの追っかけをやり、できたのが上記のインタビュー術であり、中田さんの主催するファシリテーター養成研修だったりする。


そこで、和田さんは実際にどのようなインタビューを行い、それによってどうファシリテーションを行ったのか、具体例をいくつか紹介する。

インドの米農家5%方式のモニタリング

稲作をやっているインドのある地方農村では、天候が不安定で毎年の収穫量にばらつきがあり、ほとんどとれない年なんかもある。それを解消するため、農地の5%にため池を作る。雨期にその池に水が溜まり、降雨量の足りない年でも、そこから浸透する水で一部の稲が生き残る。このシステムを5%方式と呼んだ。
和田さんはこのプロジェクトを進めるインドのNGOに、プロジェクトのモニターを頼まれ、NGOの担当者とともに村に向かった。NGO担当者は、自分たちがどのように活動を勧めているかということ、住民にもよく理解してもらい、住民主体でPJが進んでいるということを語った。
彼らは農村のキーファーマーに会った。彼は田植え中で、周囲には苗の束が置かれていた。

和田「和田と申します、よろしくお願いします。ところでこれはなんですか?」
農民「見てわかんないの?苗だよ」
和田「確かに苗ですね、すみません。ところであなたは何をなさっているんですか?」
農民「わかるでしょう、田植えだよ」
和田「そうですよね、すみません。ところで、なんで直接蒔かずに、稲を育ててから田植えをなさるのですか?」
農民「そんなことも知らないのかい。まずある程度育てたところでよく育つやつを選別できるだろ?それからうんぬん」
和田「なるほどなるほど!全然知りませんでした、勉強になりました。ところであの穴はなんですか?」
農民「よくわからねえ。」
和田「よくわからないものを掘ってらっしゃるんですか?」
農民「だって(NGO職員を指して)こいつが掘ってくれって言うからさ。こいつには世話になってるから、頼まれたら嫌とは言えねえべ」
和田「よくわかりました、ありがとうございました」

ここでインタビューをすぱっと切り上げた。
NGO担当者は唖然として、次に何か弁解しようとしたが、和田さんが取り合わないから早々に諦めた。このあと、和田さんはこの話題に一切触れなかった。


このケースで、和田さんはまず当たり前のような質問から入り、さらに農民に教えを請うている。同行した中田さんによると、その場では本当に知りたそうに見えたそうだ。これによって、和田さんは農民の自尊感情を十分に高めた。
そして肝心の穴について聞く。ここで農民から「よくわからねえ」という本音がボロンと出る。これは、普段は援助してくれるNGOの下に置いている自分が、それと対等になるところまで自尊感情があがったためだ。ここで農民はNGO職員と対等であると感じ、NGO職員の前でも本音が出たのだ。
そしてその本音を聞くことで、NGO職員には気づきが生まれた。全然住民主体になってない、このままだと絶対根付かない、という。この気づきこそ、和田さんの狙ったもので、その気づきを与えることこそ、ファシリテーションなのだ。
さらに最後まで抜かりはなく、和田さんはその後NGO職員とこの話をしない。NGO職員はインタビュー中に赤っ恥をかきながらも気づきを得た。それ以上責めても職員の自尊感情が下がるだけ。実際にこのPJを進めるのは彼なのだから、彼の自尊感情を維持することも大事だ。


普通の人なら農民のインタビューというと、たぶんこんな感じになる。

普通「今年の収穫量はどうですか?」
農民「うーん、あんまりよくないですね」
普通「何か困ってることはありますか?」
農民「やっぱり収穫量が安定しないことかなあ」
普通「あの穴はなぜ掘ってらっしゃるんですか?」
農民「ああ、あれは5%方式っつってね・・・(と、NGO職員に聞いたことを話す)」

1,2問目で事実じゃなくて相手の考えを聞いてしまっている。農民は相手の期待に応えるというところから脱却できず、3問目で相手の欲しているであろう教科書的な答えをする。
つまり、こんな聞き方では、本当に住民に伝わっているかは図れない。

マイクロクレジット調査

対象の国や地域がどこだったか忘れてしまったが、和田さんがマイクロクレジットの調査に行った。
マイクロクレジットは貧しい家庭に少額の融資をして、それで事業をやってもらうという仕組みで、貧困層の自立に大きな役割を果たしているシステムだ。だが、うまくいってないところもある。
和田さんはマイクロクレジットを受けている女性を捕まえた。

和田「マイクロクレジット、いつもらったんですか?」
女性「2週間前」
和田「どこでもらったの?」
女性「どこどこ」
和田「いくらもらったの?お札何枚?」
女性「いくらいくら」
和田「もらってそれを何にしまったの?」
女性「サリーの腰のところに巻き込んで」
和田「そのまままっすぐ帰ったの?」
女性「バザーに寄った」
和田「何を買ったの?」
女性「油」
和田「何を買うためにもらったお金だったの?」
女性「ニワトリ」
和田「それで、帰ったらどうしたの?」
女性「ここに隠した」
和田「なんで?」
女性「夫に見つかるから」
和田「夫に見つかるとどうなるの?」
女性「酒飲みに行かれる」

こういう話をしているうち、あるところから回答者が自主的に話してくれて、質問そのものがいらなくなる。
通常こういう調査は「マイクロクレジットが必要ですか?」という質問を通して為される。しかし、生活のために必ず必要か、あった方がましな程度かは、この質問ではわからない。マイクロクレジットに関する調査はほとんどこんなレベルで行われており、調査した方はすべての資料を「資料価値なし」としなければならなかった。

こういう手法を身につけるには?

この手法を体系化した中田さんでも、和田さんのようになるのは不可能だという。しかし上の手法を用いることで、そこに近づくことはできる。
ただ、インタビュー、ファシリテーションは生もので、すべてが教科書どおり進むわけではない。そこには経験の要素が多数必要になる。
そうした経験を積む場はなかなかないが、そのための訓練はできる。それは、インタビュー手法1、「事実」/「考え」/「感情」のうち、どれかを聞いているのか、日常の中でも意識すること。そうするとおもしろいことになると中田さん。最後はぼかされました。


中田さんの和田さんに関するお話は、以下の参加型開発研究所のサイトにあります。読み物としてもおもしろい。
http://www.f3.dion.ne.jp/~ipdev/Nwada-tatsujin2.html