企業の外注プロセスとの比較による南北NGOのパートナーシップの検討
FASIDのNGOディプロマコース、以前も紹介したが、国際協力NGOのための研修コース1学期に、5月から参加していた。
これは、国際協力NGOで働く人をメインターゲットとして、NGO向けの包括的な教育を行ない、それによってNGOの援助効率を上げることを目的とした研修である。
研修は3学期に分かれており、各学期を終了するとFASID認定ディプロマが与えられる。ディプロマとは卒業証書のことらしいので、FASIDのNGO研修修了生というところだろうか。
僕はこの研修の1学期を、今日から受講し始めた。1学期は「NGOの歴史と発展」がテーマで、NGO活動の理論的な裏付けを持つこと、NGOについての全体像を掴むことを目指している。
国際協力NGOを学ぶための8冊&web上の参考文献 - フランシーヌの場合は
研修は8月まで3ヶ月あり、すべての講義が終わったあとレポートを提出しておわる。本日そのレポートの評価をもらい、晴れて合格点をもらえたので、そのレポートを掲載する。
このレポートは、南北NGO(先進国のNGOと、途上国の現地NGO)のパートナーシップをテーマにしていて、資金力において差があるため元々対等ではない両者がよりよい関係を築くにはどうすればよいのかを考えた。で、企業の外注関係と比較してみて、そのなかで何かヒントになることはないかなーと思って書いた。タイトルは「企業の外注プロセスとの比較による南北NGOのパートナーシップの検討」。
以下本文。
1.南北NGOパートナーシップの概況と、本論の位置づけ
1.1.パートナーシップ型への移行の歴史
国際開発における「パートナーシップ」という概念は、1990年代以降、国連などの主要な国際会議で使われる場面が多くなり、その重要性を増している。*1
国際協力NGOにおいてもそれは同様である。特に開発途上国における開発プロジェクトを活動の中心とする開発NGOにおいては、北の開発NGOと南の開発NGOとの関係性を表す言葉として80年代後半から強調されはじめた。*2 また、オックスファムをはじめとする北の開発NGOが、プロジェクトの実施体制を南の開発NGOへ委譲するなど*3、実際の活動についても北のNGOが直接途上国で活動する「直接型」から、現地の人々を中心に活動を行う「パートナーシップ型」への移行が進んでいる。
1.2.パートナーシップ型への移行の理由
開発NGOがパートナーシップ型の活動へと移行する理由は主に2つ、開発事業の「効率化」と「拡大」のためである。*4
限られた資金を効率的に活用し、より多くの人々を活動の対象にすることは、多くのNGOにとって、自身のミッションを遂行する上で重要であると言える。多大な人件費のかかる外国人専門家を極力減らし、その役割を現地パートナーが担うことにより、事業の効率化を図ることができ、同じ資金でより多くの活動が可能となる。
1.3.パートナーシップ型援助の問題点
パートナーシップ型の活動は、南北NGOが対等な関係を築き、その信頼の上で行うことが理想である。しかし実際は、北のNGOによる、南のNGOの活動内容やプロジェクトへの関与、プロジェクト期間の短さ、求められる膨大な報告書などについて、北のNGOに対する南のNGOの不満の声がよくあげられるような状況がある。*5
北のNGOの一方的な関与は、南のNGOの主体性を損ない、彼らの自立の妨げとなる。*6 北のNGOからの一方的な関与が影響し、開発途上国に対する説明責任を果たせていないとの指摘もある。*7 北のNGOとしても、このような活動を続けていては、事業効率が悪く、事業拡大の妨げともなる。
また、アカウンタビリティの面においても、北のNGOはドナーに対する上向きのアカウンタビリティに偏っているという、南のNGOに対する下向きのアカウンタビリティが欠如も指摘されている。*8
1.4.対等でないパートナーシップの原因
対等でないパートナーシップの原因が、南北NGOの資金力の差、資金が北から南に流れるという構造にある、という指摘は多くある。*9 *10
多くの北のNGOは、対等なパートナーシップを望んでいるのは確かである。*11 しかし実際には、資金力に基づく力関係が生まれる。北のNGOに資金を依存する南のNGOは、自身の活動や従業員の雇用、果ては団体の存続までもが、北のNGOの「ペンひとつ」にゆだねられる。*12 *13
たとえばバングラデシュのNGO「オポロジェヨ」は、ドナーであるスイスのNGO「terre des hommes」からの援助が大きく削減されたため、団体存続が難しい状況に陥った。*14
イギリスの調査機関INTRACが、ヨーロッパのNGOに対して行った調査でも、スタッフの多くが資金力の差が対等なパートナーシップを制限すると感じている、という結果が出ている。*15
南のNGOでもその認識は同様である。バングラデシュのBRACは、自己資金がないままドナーから支援を受けることで、活動までもドナーの一方的な関与を受けてしまうことを、「他人のポケットに手を入れている」状態と表現した。*16
北から南へ資金が流れる構図は、開発援助では変えようがなく、南北NGOのパートナーシップでもそれは同様である。*17 原因の根本的な解決はできない。
南北NGOがよりよい関係を築くためには、資金力による力関係が存在するという認識に立ったうえで、現状のパートナーシップが抱える課題に取り組むことが重要だ。
1.5.北のNGOの体制面における施策の事例
北のNGOが自らの力の優位性を意識し、対等でないパートナーシップを解消しようとする動きもある。
イギリスのActionAidは、援助対象の南の人々とより対等な立場に立つために、その本拠を南アフリカのヨハネスブルグに移転した。その上で、パートナーNGOの支援も引き続き行っている。*18
オックスファム・オランダは、活動現場に事務所を設けないことで、南のNGOへの過剰な関与を抑制しようとしている。*19
これらは、北のNGOの体制面での施策といえよう。
1.6.プロジェクト実施面での施策の検討
本論では、パートナーシップでのプロジェクト実施の面での施策を検討する。その上で参考としたいのが、営利企業の外注プロセスである。
資金を持つ側が力を持つことは、一般的な事柄であり、一般的な企業活動にも当てはまる。企業の外注、特にシステムインテグレーション事業においてのそれは、下請け企業と共同でプロジェクトを推進するという面でNGOのパートナーシップと共通する部分がある。元請け企業と下請け企業との間に資金力の差が存在するという面も共通している。
営利企業の場合、元請け企業の利益を優先するため、両者の力関係はより露骨な形で現れるはずだ。しかし、下請け事業を通して成長した企業も数多く存在する。このことから、外注プロセスの中で、下請け企業が保護されていることがわかる。
この企業の外注プロセスと、南北NGOのパートナーシップを比較することで、南北NGOがよりよいパートナーシップを築くための条件を検討する。
2.南北NGOのパートナーシップと、企業の外注プロセスとの比較
2.1.企業活動との差異
NGOと企業活動を比較するにあたっては、その構造上の差異を意識する必要がある。
NGOと企業の根本的な違いとして、「非対価性」と、それに伴う活動構造の差異がある。企業活動では受益者に対して対価を求めるのに対し、NGOはそれを求めない。*20 支援する側からされる側へと一方的に資金やサービスが提供され、贈与経済とも称されるこの活動形態においては*21、「受益者」と「ドナー」は別の主体となる。これに対し、企業は「受益者」であり「ドナー」でもある「顧客」を対象として活動を行う。
図1に、この構造上の差異を示す。
図 1 NGOと企業の構造上の差異
この構造が、互いの活動に与える影響も大きく、NGOと企業の活動を比較する上では考慮せねばならない。
2.2.プロジェクトの流れと、一般的な役割分担
表1に、NGOの開発プロジェクトの大まかな流れと、各フェーズでの一般的な役割分担を示す。役割分担の上で、「どちらが行うのか、はっきりしていないこと」は、「あいまいな領域」として記載する。
表 1 プロジェクトの流れと北の開発NGOのかかわり、主な役割分担*22
プロジェクトの流れ | 北の開発NGOのかかわりまたは一方的な関与 | 役割分担 |
---|---|---|
ニーズ把握とプロジェクト形成 ↓ |
自分たちの活動内容に合ったパートナーを選ぶ。 プロジェクトの中心課題を自分たちの資金集めに合ったものにする。たとえば、子ども、女性、技術移転。 |
[あいまいな領域] プロジェクトの計画 |
プロジェクトの計画立案 ↓ |
規模、予算、期間について、自分たちの能力に合わせるように主張する。 | [あいまいな領域] プロジェクトの計画 [北のNGO] 自国政府との調整 [南のNGO] プロジェクトの計画書作成 |
プロジェクトの契約 ↓ |
中止の決定方法、活動資金の返還方法、変更の承認、評価方法など自分たちの権限を契約内容に残す。 | [北のNGO] 活動資金の提供 |
プロジェクトの実施 ↓ |
基本的には南の開発NGOに任せる。 | [あいまいな領域] プロジェクトの変更 [南のNGO] プロジェクトの実施 実施上必要な調整 実施上必要な人事管理 現地政府との対応 |
モニタリングと報告 ↓ |
報告書の書式設定、報告回数の指定、分析方法の指示、写真撮影の依頼、詳細な会計報告。 | [あいまいな領域] モニタリング [北のNGO] 支援者への報告、説明 [南のNGO] プロジェクトの情報収集 会計業務 プロジェクトの報告書作成 |
プロジェクトの評価と継続のあり方の決定 | 評価方法の規定、次の段階を計画する場合の中心課題の設定。 | [あいまいな領域] プロジェクトの評価 間接的な活動 [北のNGO] 自国内での活動のアピール 自国内での開発教育 南の開発NGOの組織能力の向上 |
役割分担の「あいまいな領域」に対して、北のNGOからの一方的な関与が発生しやすく、不平等な関係を生み出す。*23
以降、表1の各フェーズについて、企業のプロジェクト推進フェーズと比較する。特に、北の開発NGOの一方的なかかわりとして挙げられているような事態はどのように防がれているのか、あいまいな領域の役割分担はどう決められ、その分担はどう守られているのかという点に注目する。
2.3.ニーズ把握とプロジェクト形成
このフェーズは、活動地域と大まかな分野の決定、ニーズ把握のための調査、詳細な現状調査の3つのプロセスに分けられる。
1つめの活動地域と大まかな分野の決定は、企業で言えば営業方針の決定にあたる。この決定においては、NGOや企業の持つ団体特性が大きな要因となる。パートナーとなる南のNGO、下請け企業の選択においても、団体特性は大きな要因となる。大方針を決定が、その団体の持つ強みを生かす方向になるのはまったく健全なことであるが、NGOの場合、後述の問題をはらむ。
2つめのニーズ把握のための調査では、NGOと企業との差が大きく出る。NGOの場合、前述の「非耐価性」のため、「受益者」のニーズの他、「ドナー」のニーズ、つまり資金を出す対象として、どのような活動が求められているのかも調査せねばならない。受益者とドナーのニーズには、しばしばずれが生じ、そのため南のNGOが、ドナーのニーズに振り回されるという不満を持つような状態にいたることもある。*24 一方企業は、両者の役割を「顧客」が兼ねているため、ニーズのずれは生じない。NGOの活動において、ニーズのずれは構造上避けられないことではあるものの、ドナーに対するアピールを通して、ドナーのニーズを受益者のそれに近づけることも、北のNGOの役割である。
またNGOは、受益者に対するニーズ調査においても注意すべき点がある。それは前述の団体特性の点である。受益者は顧客と違い、基本的にリスクを負わない。そのため、援助を受けられないよりは、自身のニーズとずれのある活動でも受けた方が得になる。そのため、調査を行うNGOの分野に合わせたニーズを演出する場合もある。NGOはこれを乗り越え、より本質的なニーズを探り出す必要がある。
ニーズ把握の調査の段階では、企業の場合は元請け企業のみで活動することがほとんどである。これは、元請け企業のほうが顧客との距離が近いためである。一方NGOの場合、ドナーとの距離は北のNGOが、受益者との距離は南のNGOが近いという構造を持つ。このため、早い段階で南北NGOの連携が効果を発揮する場面が生まれる。
3つめの詳細な現状調査は、上記2つの活動の後に行う。ニーズ把握よりも踏み込んだ、詳細な調査を行い、具体的な課題を洗い出す。ここで洗い出された課題が、以降のフェーズで立ち上げるプロジェクトのターゲットとなる。NGOの場合は、地の利を持つ南のNGOが主体となって行うべきプロセスである。企業の場合、技術的な面を下請け企業に依存するのであれば、この段階から下請け企業が参加するほうが、より詳細な調査を行うことができる。
2.4.プロジェクトの計画立案
このフェーズは、計画立案とドナーとの契約に分けられる。
計画立案で決めるべきことの例として、UNDPのプロジェクト・ドキュメントの項目を表2に示す。
表 2 プロジェクト・ドキュメントの項目*25
A 文脈
対象としているプロジェクトのセクターの状況(たとえば工業化支援プロジェクトなら工業の現状)
途上国のセクター開発戦略(工業開発戦略)
対象分野でいままでにおこなわれた援助の成果
行政的・組織的位置づけ
B プロジェクトをおこなうことの正当性
問題となっている現状
プロジェクト終了時の予測される成果
プロジェクトで対象となる人々
プロジェクトの実施方法
なぜUNDPが支援する必要があるのか
特別の考察(環境や女性の状況(WIO)などへの配慮)
プロジェクト実施のための協調体制づくり
カウンターパートの支援
C プロジェクトの上位目標
D 目標・成果・活動
E インプット(専門家、機材など)
F リスク分析(予定どおり成果を上げるために満たされるべき外部・内部条件)
G プロジェクト開始に当たっての条件
H プロジェクト協議の方法
I 法律的規定(UNDPと途上国政府の協定に基づいた援助である旨の確認)
J プロジェクト予算
このほか、プロジェクトの予定を記した図表と、プロジェクト専門家の仕事内容を書いた業務指示書(terms of reference)がつけ加えられる。
プロジェクトの計画においてもっとも重要な項目は、そのプロジェクトの成果の設定である。プロジェクト終了時の報告を見据え、評価可能な指標を用いて、成果目標を設定する。企業の場合、商品やサービスの提供という、わかりやすい成果がある。一方NGOの場合、明確な成果目標を設定しにくい。表2においても、成果については「プロジェクト終了時の予測される成果」という表現にとどまっている。もちろんプロジェクトの目標は明確である。NGOがそこから明確な成果目標を策定できない理由は、プロジェクトによってその目標がどの程度達成されるのか測りにくいという点にある。これを乗り越えて成果目標を設定するためには、より厳密な事前調査とプロジェクト計画を必要とする。そして終了時の評価においても、この成果目標は第一の指標となる。このように、成果目標を設定することは、プロジェクトの質を高めることにもなる。
プロジェクトの成否を分ける要素は、前述の成果目標の達成と共に、品質・予算・期間を守ることが挙げられる。この3つは、プロジェクトを実施する側ができる範囲と、ドナーが資金を出せる範囲・条件、受益者が受け入れられる範囲が限界となる。計画立案フェーズでの北のNGOの一方的な関与として、「規模、予算、期間について、自分たちの能力に合わせるように主張する。」という指摘があるが、これは責任を持ってプロジェクトを遂行する上では当然のことである。しかし一方で、ニーズを満たすべくプロジェクト遂行のためのリソースを調達すること、また効率化によりコストを削減することは、プロジェクトを実施する側に求められることでもある。企業においてはその点で他社と競争になるため、否が応でも対応せねばならない。NGOの場合も、ニーズへの対応を求められていることは変わらない。南のNGOにより多くの役割を与えることは、それに応えるためのひとつの方法でもある。
また、予算を計画するため、企業はこの段階で、下請け企業に対して見積もりを要求する。これにあたっては、下請け企業に委託する業務内容や、成果物、プロジェクトの運営方法など、見積もりに影響する事項が仮にでも決まっている必要がある。ここで作業内容を明確化しないまま見積もりを行うと、後々作業範囲について揉める可能性が高く、またその作業の責任を、力関係において下に位置する下請け企業が、不当に負わされる恐れがある。顧客の要件変更による作業項目の変更でもない限り、追加費用を顧客から得ることは難しく、その分は企業側で費用負担しなければならない。よってこの段階での見積もりと、それに伴う作業内容の明確化は、赤字プロジェクトを防ぐ上でも重要である。
南北NGOのパートナーシップにおいては、このように一方的に不利益をこうむるような場面は想定しづらい。しかしそれに代わって、北のNGOの一方的な関与を許すという問題がある。作業項目などの明確化は、作業主体を明確にし、そこに対する一方的な関与を防ぐ、という意味で、南のNGOにとっても有効である。
ドナーとの契約は、政府系機関などからプロジェクトに対して直接資金を獲得する際に行う。プロジェクトに対する支援を申請し、審査を受け、場合によってはプロジェクトの計画に変更を加え、最終的に審査が通れば資金獲得となる。企業でいえば、これは提案のプロセスにあたる。このプロセスで、企業は顧客のニーズとプロジェクト計画のすりあわせを行い、プロジェクト計画の最終化を行う。顧客はここで、プロジェクトがニーズに一致しているか、予算は妥当か、といった点を総合的に評価し、プロジェクトを発注するかどうかを決定する。
NGOの場合も、同様の観点からプロジェクトの審査がなされているはずであるが、受益者が直接審査するわけではない。これはプロジェクトと受益者のニーズのずれを修正するうえでは不十分であり、別途プロジェクトのすりあわせを、受益者と行うべきである。
ここまでのフェーズはすべて、プロジェクト発足前の段階であるため、南北NGO、元請け、下請け企業とも、自身の資産からその活動資金を捻出せねばならない。
2.5.プロジェクトの契約
ここでいう契約は、前述のドナーとの契約ではなく、南北NGO、元請け・下請け企業で取り交わす契約を指す。
契約は、基本的にプロジェクト計画に基づいて行われる。作業分担も、プロジェクト計画時に行った見積もり時のそれとなる。
このフェーズで問題とされている、契約に北のNGOの権限を残すという点について、エンパワーメントの観点から見るとあまり望ましいことではないが、両者合意の上であればそれほど問題ではない。この点は南のNGOがリスクとしてとらえるべき項目であり、当然見積もりにも影響がある。権限の分担は、PJ計画の段階で明らかにしておくべきことなのである。
しかし、この権限含め、決めるべき項目が決まらないうちに契約を行うというケースも発生しうる。そうなると、先のプロジェクト計画フェーズと同様、問題が発生した場合に力の弱い団体が不利益をこうむる可能性が高い。逆に、力の強い側は、自信の不利益にはならないことを見越して、このような状態でも契約を進めようとする場合がある。
企業活動においては、このようなリスクから下請け企業を守るための、「下請法」が存在する。この法律では、支払期日や発注文書に記載しなければならない項目など、元請け企業側の義務4項目と、不当な受領拒否や買い叩きなどを禁止した、元請け企業側の禁止事項9項目が定められている。*26
2.6.プロジェクトの実施
このフェーズは基本的に南のNGO、下請け企業が主体的に行う。ここで問題となるのは、プロジェクトの計画変更である。各種契約はプロジェクト計画に基づいて行われているため、これを逸脱するような計画変更には契約内容の変更が必要になる。しかし、プロジェクト計画や契約に現れてこないレベルの作業が、プロジェクトの推進上必要となる場面も、往々にしてある。
企業の場合、責任の所在は変更の原因によって決まる。要件の変更なら顧客、プロジェクト計画のミスなら元請け企業、見積もり時のミスなら下請け企業が、プロジェクト変更の責任を負う。しかしここで、責任の所在をめぐって意見の対立が起こることがあり、結果として力関係の弱い団体が責を負うことにつながる。このことがあるため、企業は契約段階で、可能な限り作業項目の詳細化を行う。
NGOにおいては、北のNGOの一方的な計画変更という形で現れる。これを免れるためには、企業と同様早い段階での作業の詳細化が有効だ。
2.7.モニタリングと報告
モニタリングと報告は、プロジェクトの実施中とプロジェクト実施後の2フェーズに分けられるが、ここでは前者を取り扱う。
プロジェクト実施中のモニタリングは、おもにプロジェクトの進捗を確認するために行われる。モニタリングは打ち合わせや報告によっておこなわれ、この活動にも南のNGOのリソースが費やされるため、プロジェクト計画段階でそのやり方を明確にし、見積もりに含めることが望ましい。このフェーズの問題点として挙げられている、一方的な報告書の書式設定や報告回数の指定などは、計画段階で合意が取れていれば問題にはならない。
2.8.プロジェクトの評価と継続のあり方の決定
プロジェクトの評価は、プロジェクト計画で定めた成果目標に対する成果に対しておこなう。NGOの活動において、明確な成果を示しにくいことは、プロジェクト計画の部分でも述べた。このためNGOが成果を報告するにあたっては、評価が必要となる。評価をするにあたっては、プロジェクト計画で定めた評価指標を用いることが望ましい。この指標を用いることによって、評価方法が北のNGOから一方的に決められ、ドナーに対する説明・アピールのための情報が優先される*27、ということもなくなる。
企業における、商品やサービスの提供といったわかりやすい成果と同様、NGOの活動においても、学校の建築など、わかりやすい成果を目標とするプロジェクトも存在する。しかし、成果がわかりやすいからといって評価が必要ないかといえば、決してそうではない。この場合、プロジェクト計画にて定めた品質が、評価の主眼となる。
プロジェクト評価においてもう一点、視野に入れるべき事として、プロジェクトの副次的な影響の評価がある。プロジェクトの目標に対する成果以外で、このプロジェクトがどのような影響を与えているかという評価である。1950年代、世界保健機構(WHO)がボルネオ島で、マラリア撲滅のためにDDTを散布した。この結果マラリアの流行は収まったものの、副次的な影響としてねずみの媒介する別な伝染病が広まってしまったという事例があった。*28 このように、プロジェクトは思わぬ影響を生む場合がある。このような影響は、ある程度はプロジェクトの計画段階で想定すべきだが、その影響を網羅することは不可能である。よって評価時には、想定していなかった影響に対する評価が欠かせない。この点、NGOが企業に先んじている点でもある。
プロジェクトの継続については、NGOと企業の差が大きい。NGOの活動において、評価はそのまま時期の活動の計画につながる。一方企業活動の場合、基本的にプロジェクトは単発で、顧客のニーズを満たしてしまえば完了となる。
NGOの場合、活動地域のニーズを完全に満たすことは不可能に近い。北のNGOは出口戦略をもって活動に当たらないと、その活動から抜け出せなくなる恐れがある。*29 これでは、パートナーシップの目的のひとつである事業の「拡大」を実現することは出来ない。
3.南北NGOがよりよいパートナーシップを築くための条件と、それを満たすための施策
以上の比較を総じて見ると、よりよいパートナーシップを築くための条件は、プロジェクトの初期段階から南北NGOの関係を作り、南北NGO間でプロジェクト計画の詳細を詰めることにあると言える。初期段階から南北NGOのパートナーシップをおこなうことでニーズの把握や現状調査が容易となり、プロジェクト計画のための材料が豊富にそろう。そして計画段階で詳細な詰めをおこなうことで、後のフェーズでの問題は、ほぼ潰すことが出来る。
しかしその一方、プロジェクト計画における成果目標の設定の難しさは、先に述べた通りであり、計画の詳細を詰める上での課題となる。この課題を解決にあたっては、一度小規模のプロトタイプとしてプロジェクトを実施し、その結果を本来の規模のプロジェクト計画に反映する手法が有効であると思われるが、ここでは紹介にとどめたい。
*1:1 重田康博『NGOの発展の軌跡?国際協力NGOの発展とその専門性』明石書店、2005年、P.240
*2:2 下澤嶽『開発NGOとパートナーシップ?南の自立と北の役割』コモンズ、2007年、P.24
*3:3 前掲(2)、P.P.20-22
*4:4 伊勢崎賢治『NGOとは何か?現場からの声』藤原書店、1997年、P.P.240-242
*5:5 前掲(2)、P.43
*6:6 前掲(2)、P.P.9,10
*7:7 前掲(2)、P.124
*8:8 渡辺龍也「国際協力NGOのアカウンタビリティー?「答えること」から「応えること」へ?」2005年、P.P.41-43
*9:9 馬橋憲男(編),高柳彰夫(編)『グローバル問題とNGO・市民社会』明石書店、2007年、P.49
*10:10 前掲(2)、P.44
*11:11 前掲(2)、P.34
*12:12 前掲(15)、P.48
*13:13 前掲(2)、P.P.8,9
*14:14 FASID NGOディプロマコース1学期 中田豊一「パートナーシップ?」2008/7/12
*15:15 前掲(2)、P.31
*16:16 前掲(2)、P.P.86,87
*17:17 前掲(15)、P.52
*18:18 前掲(15)、P.50
*19:19 前掲(2)、P.53
*20:20 前掲(15)、P.252
*21:21 FASID NGOディプロマコース1学期 伊藤道雄「NGOの歴史と発展?日本の事例を中心に」2008/6/14
*22:22 前掲(2)、P.P.51,28
*23:23 前掲(2)、P.P.28,29
*24:24 前掲(2)、P.42
*25:25 斉藤文彦『現場から考える国際援助?国際公務員の開発レポート』日本評論社、1995年、P.114
*26:26 堀内 栄一, 神谷幹雄『よくわかる!購買・外注の管理―原則から戦略まで』税務経理協会、2002年、P.P.99-101
*27:27 前掲(2)、P.P.47-50
*28:28 デニス・メドウズ,枝廣淳子,ドネラ・H.メドウズ『地球のなおし方』ダイヤモンド社、2005年、P.P.10-12
*29:29 前掲(2)、P.10