2007年参院選 基礎の基礎
はじめに告白しておくと、つい最近まで僕は選挙のやり方を知らなかった。投票用紙に書くのは政党名か個人名か、とか、その票が個人の当落や政党の議席数にどう結びつくのか、とか。
たぶん皆わかっているようなことだと思うのだが、このエントリーでは、そのようなことについて書いていく。なので、基礎の基礎である。
参院選は大選挙区制と非拘束名簿式比例代表制で行なわれる。
衆院選と違い重複立候補はできない。なので、衆院選であったような、小選挙区で負けても比例区で復活して当選、なんていうことは起きない。
大選挙区制と非拘束名簿式比例代表制、それぞれの選挙制度について、衆院選と比較しながら見ていく。
大選挙区制
都道府県を1選挙区として、そのなかから複数人を選ぶ方式。北海道は当選枠4人、という形。有権者は自分の選挙区に立候補している人の中から1人を選び、その氏名を書いて投票する。
衆議院は小選挙区制で、これは選挙区をより小さい単位に分割して、そのなかから1人を選ぶ方式。
自民党と公明党の選挙協力の仕方を見ると、この制度の違いがわかりやすいかと思う。
今回の参院選では、たとえば自公共々当選したいが公明党が危ないというような選挙区(愛知)では、自民党の支持基盤の票を一部公明党に流す、ということがやられている。
一方衆院選は小選挙区であるので、そもそも自民党と公明党は同じ選挙区に候補を立てない。
投票者にも同じような悩みどころがある。ある政党から2人当選させたい場合、どちらに投票するのが得策か、とか。
非拘束名簿式比例代表制
まずは比例代表制について。
比例代表制は、政党の得票数に応じて議席が決まる制度。たとえば自民党が100票とったから10議席、民主党は50票だから5議席、といった形になる。
参院選では全国を1区として考えるが、衆院選では北海道ブロック、東北ブロックと言った大きさで選挙区がわかれる。
で、非拘束名簿式だが、その前に単純拘束名簿式について。この二つの違いは、上記獲得議席に誰が座るのか、ということを、どう決めるかという話。
単純拘束名簿式、これは衆院選での方式で、政党は選挙前に比例区に立候補した人々に順位をつけたリストを作っておく。
有権者は投票用紙に政党名を書く。それが政党の議席数につながる。
選挙で自民党が4議席獲得したとすると、この上から4人が当選、5番目以下が落選ということになる。愛知さん残念でした。*1
一方参院選での非拘束名簿式だが、これは投票の仕方からして違う。有権者は投票用紙に政党名か個人名、どちらか好きな方を書く。
政党の議席数は、政党名での得票と、書かれた個人の所属している政党、これを合わせた数で決まる。
国民新党、綿貫民輔、亀井静香、どれを書いても、国民新党に対する1票になる。
非拘束名簿式でもリストは作るが、単純拘束名簿式と違って順位は着けない。こんな感じ。
比例区立候補者リスト(例)
・綿貫 民輔
・亀井 静香
ここで国民新党が1議席獲得したとする。そうすると誰が受かるのか。
それは個人名での得票数で決まる。
・綿貫 民輔 100票
・亀井 静香 50票
であれば、綿貫さんが受かって亀井さんが落ちる。綿貫さんおめでとうございます。
つまり、個人名での投票は、政党内での競争に使われる、ということである。
この方式での悩みどころは、たとえばこういう感じ。
民主党のタカ派の候補者を当選させてやりたいけど、民主党のリストにはハト派の候補者もいて、自分の投票で民主党の議席が増えて当落線上のハト派が受かったりしたらヤダな、とか。
政党名と個人名、どちらが多い?
では政党名と個人名、どの程度の割合で投票されているのか。日経新聞を参照すると、比例区全体の得票数中に占める個人名での得票は、この制度が始まった2001年で35%、前回2004年の参院選で30%程度であった。
- 2001年参院選
政党名 | 得票総数 | 政党名得票数 | 個人名得票数 | 個人名得票率(%) | 得票率(%) | 当選者数 |
---|---|---|---|---|---|---|
自民党 | 21,114,706 | 14,909,237 | 6,205,489 | 29.39 | 38.57 | 20 |
民主党 | 8,990,522 | 6,075,218 | 2,915,304 | 32.43 | 16.42 | 8 |
公明党 | 8,187,827 | 1,864,080 | 6,323,747 | 77.23 | 14.95 | 8 |
共産党 | 4,329,212 | 4,055,597 | 273,615 | 6.32 | 7.9 | 4 |
自由党 | 4,227,149 | 3,639,501 | 587,648 | 13.90 | 7.72 | 4 |
社民党 | 3,628,635 | 2,295,364 | 1,337,428 | 36.86 | 6.62 | 3 |
保守党 | 1,275,002 | 608,697 | 666,305 | 52.26 | 2.32 | 1 |
自由連合 | 780,391 | 399,886 | 380,505 | 48.76 | 1.42 | 0 |
二院クラブ | 669,872 | 373,777 | 296,095 | 44.20 | 1.22 | 0 |
自由と希望 | 474,887 | 108,819 | 366,068 | 77.09 | 0.86 | 0 |
女性党 | 469,692 | 381,452 | 88,240 | 18.79 | 0.85 | 0 |
新社会党 | 377,014 | 247,558 | 129,456 | 34.34 | 0.68 | 0 |
無所属の会 | 157,204 | 133,600 | 23,604 | 15.01 | 0.28 | 0 |
新風 | 59,385 | 44,245 | 15,140 | 25.49 | 0.1 | 0 |
合計 | 54,741,498 | 35,137,031 | 19,608,644 | 35.82 | 48 |
- 2004年参院選
政党名 | 得票総数 | 政党名得票数 | 個人名得票数 | 個人名得票率(%) | 得票率(%) | 当選者数 |
---|---|---|---|---|---|---|
民主党 | 21,137,458 | 17,345,037 | 3,792,421 | 17.94 | 37.79 | 19 |
自民党 | 16,797,687 | 11,604,565 | 5,193,122 | 30.92 | 30.03 | 15 |
公明党 | 8,621,265 | 2,490,182 | 6,131,083 | 71.12 | 15.41 | 8 |
共産党 | 4,362,574 | 3,782,176 | 580,398 | 13.30 | 7.79 | 4 |
社民党 | 2,990,665 | 2,054,295 | 936,370 | 31.31 | 5.34 | 2 |
女性党 | 989,882 | 788,396 | 201,486 | 20.35 | 1.76 | 0 |
みどり | 903,775 | 619,985 | 283,790 | 31.40 | 1.61 | 0 |
新風 | 128,478 | 106,991 | 21,487 | 16.72 | 0.22 | 0 |
合計 | 55,931,784 | 38,791,627 | 17,140,157 | 30.64 | 48 |
個人名得票率は政党ごとに大きな差があるが、そこから意味を見いだせないのでとりあえずスルーする。
タレント候補
ここで、タレント候補について触れておきたい。比例区は対象地区が大きく、参院選ともなれば全国から選ばれるということになる。このため、全国的な知名度の高いタレント候補が、党全体の得票の底上げのために担ぎ出される。
今回で言えば、自民党の丸川珠代、丸山弁護士こと丸山和也、ヤンキー先生こと義家弘介、民主党のさくらパパこと横峯良郎、国民新党のフジモリ元ペルー大統領、新党日本の田中康夫、ジャーナリストの有田芳生、といったところか。現職では自民党の橋本聖子、舛添要一がいる。
では、これまでタレント候補は、どの程度の集票力を持っていたのか。
先ほどと同じく2001年、2004年と比較する。舛添要一、竹中平蔵、田島陽子は一概にタレント候補と言えないかもしれないが、全国的な知名度を持つということで入れておく。
- 2001年参院選
氏名 | 個人名得票数 | 割合(%)*2 | 肩書 | 党内順位 | 当落 |
---|---|---|---|---|---|
自民 | |||||
舛添 要一 | 1,588,862 | 7.52 | 国際政治学者 | 1位 | 当 |
大仁田 厚 | 461,021 | 2.18 | プロレスラー | 3位 | 当 |
橋本 聖子 | 266,145 | 1.26 | 元総括政次官、(元)スケート選手 | 6位 | 当 |
民主 | |||||
大橋 巨泉 | 412,354 | 4.59 | タレント | 1位 | 当 |
幸田シャーミン | 139,125 | 1.55 | 元キャスター | 12位 | 落 |
社民 | |||||
田嶋 陽子 | 509,841 | 14.05 | 法政大教授 | 1位 | 当 |
二院クラブ | |||||
青島 幸男 | 284,788 | 42.51 | 元都知事 | 1位 | 落 |
全体 | 3,662,13 | 66.69 |
自由連合はタレント候補ばかりだし全員落ちたので割愛。
- 2004年参院選
氏名 | 個人名得票数 | 割合(%)*3 | 肩書 | 党内順位 | 当落 |
---|---|---|---|---|---|
自民 | |||||
竹中 平蔵 | 722,505 | 4.3 | 経財担当相 | 1位 | 当 |
荻原 健司 | 194,854 | 1.16 | (元)スキー選手 | 9位 | 当 |
神取 忍 | 123,521 | 0.74 | プロレスラー | 14位 | 落 |
民主 | |||||
喜納 昌吉 | 178,815 | 0.85 | 歌手 | 11位 | 当 |
全体 | 1,219,695 | 2.18 |
2001年には各党とも大物を揃えて得票を伸ばし、全体得票中6%以上をタレント候補の個人名が占めるという結果になっている。比較して2004年は、候補者自体に小粒感*4があり、全体得票中の2%まで下がっている。
ここで大きく票を稼いでいる候補を見ると、総じて政治家として力を発揮できるような印象のある人が多い。いくら知名度があるとはいえ、そういったイメージがなければ集票も難しい、というのが実体であろうか。大仁田はちがうな。
非拘束名簿式については、以下のサイトがわかりやすかった。
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