フレドリック・ブラウン『未来世界から来た男 (創元SF文庫 (605-1))』『天使と宇宙船 (創元SF文庫)』

フレドリック・ブラウンの短編集、『未来世界から来た男 (創元SF文庫 (605-1))』『天使と宇宙船 (創元SF文庫)』を、2冊続けて読みました。
フレドリック・ブラウンは、1940-60年代に活躍した、SFとミステリーをこなす短編の名手として知られています。同じく短編を得意とした、ヘンリー・スレッサーと並べられる事が多いようです。『天使と宇宙船 (創元SF文庫)』の巻末では、短編SFのロバート・シェクリー、レイ・ブラッドベリとも並べられていました。
僕がこの作家を知ったのは、これらの並べられている作家ではなく、清水義範の短編集『黄昏のカーニバル (徳間文庫)』の巻末、牧眞司の解説文を読んだためです。ここで牧眞司は、『黄昏のカーニバル (徳間文庫)』に収録されている「唯我独存」という作品の解説において、フレドリック・ブラウンに触れています。以下にその部分を引用します。

たとえば「唯我独存」という作品。ブラウンなら原稿用紙二〜三枚にまとめてしまうアイディアである。それを清水義範は、主人公が中学三年生のとき、SF雑誌のコラムで唯我論を知ったというくだりから書きはじめる。

ここで牧眞司は、フレドリック・ブラウンと比較して清水義範の饒舌さを挙げ、それを読ませる「語り」の魅力を語っています。この短編集は、90年代のアイディアSFなのに懐かしい雰囲気があり、また特に子供やおじいちゃんが魅力的に描かれておりました。これが語りのうまさのためなのだなと思いました。
それとは別に、ここに書かれている、アイディアを「二〜三枚にまとめてしまう」フレドリック・ブラウンに興味を持ちました。もともと、中学時代に渡辺浩弐の「ゲーム・キッズ」シリーズ(『1999年のゲーム・キッズ (幻冬舎文庫)』など)が好きになり、よく読んでいたので、アイディアSFという分野に興味を持ったのだと思います。ちなみに渡辺浩弐の「ゲーム・キッズ」シリーズは、近い将来実用化されるであろう技術をテーマにした短編SFで、週刊ファミ通に連載されていたのですが、1話が雑誌の半ページという、非常に短い作品でした。ストーリーは皮肉っぽいものがほとんどでした。密度がとても濃いように感じた事を覚えています。

話がどんどん横に逸れてしまいます。そういうわけで、たまに本屋に寄っては、フレドリック・ブラウンの本を探していましたが、これがなかなか見つかりませんでした。先月ようやく、吉祥寺のミステリー専門の本屋さんで見つけました。そのときは、ブラウンはSF作家だとばかり思っていたので、なぜミステリーの本屋にあるのか、腑に落ちませんでした。

それでは、ようやく本書の紹介と感想です。

まず、とにかく短いです。2ページ、4ページで終わる作品がゴロゴロしています。ストーリーは1つのアイディアが中心となっています。そのアイディアが舞台の前提条件になっている事もあり、またオチとして使われる事もありますが、どちらにしてもそれをあまり膨らませず、簡潔に書いています。アイディア自体は、2005年現在から見ればどれも使い古されているもののように思えます。そのため、話自体に新鮮味はあまりありませんでしたが、そのアイディアの面白さをストレートに伝える作品でした。
話の傾向としては、皮肉っぽく、軽い、ジョークのようなものが多いです。その軽さと斬新さのためか、当時はブラウンを読んでいればお洒落という風潮があったようです。

この本、僕はとても好きでした。先ほど挙げました短さ、軽さが、通勤中に読むのにぴったりでした。会社に行くまでに何本か、会社から家までで何本か読めてしまいますし、気持ちを引きずられるなんて事もありません。また、どの作品もオチがしっかりしているので、安心して読めました。どのはなしも、最後まで「どうなるんだろう」という期待を持って読んでいました。たぶんこの、期待とオチという小さなカタルシスの連続を、僕は心地よく感じたのだと思います。よい本でした。

最後に、今回の記事で触れた本を挙げます。

未来世界から来た男 (創元SF文庫 (605-1))

未来世界から来た男 (創元SF文庫 (605-1))

天使と宇宙船 (創元SF文庫)

天使と宇宙船 (創元SF文庫)

黄昏のカーニバル (徳間文庫)

黄昏のカーニバル (徳間文庫)

1999年のゲーム・キッズ (幻冬舎文庫)

1999年のゲーム・キッズ (幻冬舎文庫)