「佐藤雅彦研究室展 課題とその解答」
8/12、佐藤雅彦さんの研究室の展示に行ってきました。
展示内容は3つに分かれています。1Fは佐藤雅彦研究室のワークショップを、映像と実際の教材を用いて紹介しており、またゼミの課題とそれに対する生徒の回答を展示していました。BFには佐藤雅彦研究室が生み出してきた書籍、映像などの作品(実物ピタゴラ装置も!)が展示されていました。2Fでは毎日16:00から1時間半、ピタゴラ装置の映像と、今年の始めにNHKで放送された「考え方が動き出す」を上映しています。(毎回立ち見が出るので、早めに並ぶとよいかもしれません。また、一番後ろの席は低く、僕はスクリーンの下半分が見えませんでした。)
佐藤雅彦研究室では、まずテーマの最も根源的な部分を見つけることから始めます。そして、その根源的なものを最もわかりやすく表す表現方法を模索し、いくつかのテストケースを作ります。ここまでが1Fの展示です。このテストケースを、よりわかりやすく、よりキャッチーに、ポップにしたものが、佐藤雅彦研究室から生まれてくる作品となります。アルゴリズムの考え方から、ブレーメン2000を経て生まれた、アルゴリズムこうしんがわかりやすい例と言えるでしょう。
佐藤雅彦さんの作品は、普段はピタゴラスイッチなどでよく目にしますが、今回の展示では、その作品に至るプロセスが、主となっているように見受けられました。そしてそれは、僕の佐藤雅彦さんに対する見方を大きく変えました。
その変化こそが、今回の展示による一番の収穫でした。
以前から抱いていた佐藤雅彦さんの印象は、難解と思われているものを取り上げて、その考え方の持つ本質的な部分を抽出することに長けた人というものでした。
例えば2分木のデータ構造について、僕は情報処理試験のときに勉強しました。問題には答えられるようになりましたし、仕組みも理解したつもりです。ですが、その根底にある考え方までは理解できませんでした。その後、佐藤雅彦研究室の2分木アニメーションを見ることで、ようやくその考え方を理解するとともに、その面白さに触れ、2分木についての興味を持つようになりました。
また、新たに会場で見た、ソートのアルゴリズムをテーマにした映像についてもそうなのですが、実際に勉強する前にこれを見ていれば、もっと興味を持て、より深く理解できたのではないかと思わせるものが多くありました。
ここで僕は、作品の中の「わかりやすさ」を、テーマを伝える手段と捉え、また無意識にそのわかりやすさを利用することを考えていました。しかし佐藤雅彦さんの中で、「わかりやすくつたえること」は、手段ではなく、目的、テーマだったのです。
先に例としてあげた2分木についての作品は、2分木の持つ本当の面白さを伝えるために作品を制作したのではなく、2分木という素材をいかにわかりやすく伝えられるかというところに主眼が置かれていたのです。結果として、作品から2分木の考え方がわかりやすく伝えられたとしても、それは佐藤雅彦さんの試みが成功したということにすぎないのです。
もちろん、わかりやすく伝えることで表れる素材の面白さというのも、佐藤雅彦研究室の作品において見るべきところです。そしてこの二つの要素が、佐藤雅彦研究室の核なのではないかと思いました。
手段としての「わかりやすさ」を追求する人はいても、それを目的として追求している人というのは、佐藤雅彦さんしか知りません。もっといえば、そんな考え方は、この展覧会に来るまで微塵もありませんでした。
一方、「わかりやすさ」の持つパワーというものには、当の佐藤雅彦さんの作品、本で、イヤというほど思い知らされています。
また、佐藤雅彦さんが「わかりやすさ」を追求する方法は、論理的で、方法さえ確立すれば誰にでもできるというものです。
こう考えると、今佐藤雅彦研究室で行っている活動は、僕の想像を超えるほど、社会に大きな影響を与えるものになるのではないかと思っています。そして、そういう世の中になればいいななどと、夢想しています。
「佐藤雅彦研究室展 課題とその解答」
会期: 2005年8月4日(木)−8月29日(月)
11am−7pm (土曜日は6pmまで) 日曜・祝日は休館
会場: ギンザ・グラフィック・ギャラリー 入場無料
104-0061 東京都中央区銀座7−7−2 DNP銀座ビル
tel. 03.3571.5206
http://www.sfc.keio.ac.jp/visitors/news/articles/20050725_2528.html