え、ダルフール紛争って、もうおわったの?

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ダルフールで何が起きているのか。 - フランシーヌの場合は
ブコメ

id:swan_slab Sudan see also http://d.hatena.ne.jp/mescalito/20090905/p1 ダルフール紛争が進行形であるかのような認識が日本では根強い。これは誤解。ここ2ヶ月の欧米の報道を注視すれば喫緊の問題が武装勢力との対話や南の紛争再燃に移ったのがわかる
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マジでか!ほかならぬすわんさんだから信憑性も高いんだろうと思って、すわんさんのエントリーやいくつかニュースを見てみる。と、僕の感覚では、終わったなんてハッキリ言える情勢ではないように思えた。


ちゃんと理解できている自信はないが、先に僕の見解だけまとめて書くと、

  • ダルフール紛争が終わったのどうのと言ってるのはアメリカくらいで、そこも議論が分かれている。
  • 大規模な戦闘は終結した。(もしくは雨季だから沈静化している)
  • 避難民が帰郷できるほど治安は回復していない。
  • 武装勢力の統一はようやく始まったところ、まだ対話まで遠い。

南部については、

  • 喫緊の課題であることは確か。
  • 南部の人道問題と、ハルツームスーダン政府との関わりは薄いと思われる。

ダルフール紛争が終わったかどうかの議論

まず、すわんさんがクリップされていた以下の記事、ダルフール・トリビューンで日本語で読める。

スーダンの「計画された」ジェノサイドは終わったとアメリカ特使は言う(2009/6/18 ワシントンポスト

NITED NATIONS, June 17 -- オバマ大統領のスーダン特使、退役空軍少将J.スコット・グレイションは水曜スーダン政府はダルフールで大量殺戮の「計画された」キャンペーンにもはや関わっていないと言って、ダルフールにおける暴力を「進行中のジェノサイド」と特徴づけたアメリカの方向を転じた。
「我々が見ているのはジェノサイドの残存物だ」とワシントンのブリーフィングで記者団に語った。「我々が今目にしている暴力のレベルは第一に反政府勢力とスーダン政府の間の・・・そしていくらかチャドとスーダン間の暴力である」。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/121750884.html

その直後にこんな記事が出てる。

米、ダルフールのジェノサイドを軽視するコメントから後退を試みる(2009/6/18 ABC)

Kiritblogpic ABC News' Kirit Radia reports: ダルフールは「ジェノサイドの残存物」だけを経験しているという、それ故紛争地域の最悪の暴力は過去のものであるというスーダン特使スコット・グレイションの昨日のコメントはオバマ政権内のこの問題に関する深い不一致を明らかにした。
たった二日前国連大使スーザン・ライスがその状況を「ジェノサイド」と呼び、今月始めドイツの記者会見でオバマ大統領が「進行中のジェノサイド」というフレーズを使った。
昨日のグレイションのコメントの後、アメリカ当局者によればライスは激怒した。
そのコメントはスーダンに関する政策の精査を完了しようと働いている政権内の議論を誘発した。今日も議論は続き、言葉が国家安全保障理事会で同意されるまで1時間以上国務省定例会見のスタートを遅れさせさえした。
今日国務省公共問題補佐官P・J・クロウリーは不一致を説明するよう求められてグレイションのコメントから後退した。
「私はダルフールでジェノサイドが行われているのに疑問はないと考える。我々はダルフールの状況をジェノサイドと特徴付け続ける」とクロウリーは言った。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/121797920.html

アメリカ政府では対スーダン政府強硬派と融和派の対立があり、グレイション特使は融和派。評価は例えばこの記事など。タイトルはアレだけどグレイションに対する批判だけではない。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/125827033.html
話を戻して、グレイション特使の見解は正しいのか。少なくとも、グレイション特使が思っているほど、ダルフールの治安は回復していない。

ダルフール国連平和維持活動長官、戦争は終わったと言う(2009/9/3 AP通信

7月ダルフール訪問の際、グレイションは最大のキャンプのひとつの難民(国内避難民)に故郷に帰還するよう訴えた。彼はまたスーダンへの制裁解除を示唆し、同じ月スーダンアメリカがテロ支援国家に指定することを指示する証拠はもはやないと上院公聴会で語った。
(中略)
ダルフールのカルマ・キャンプの42歳の指導者シェイク・サレフにとってグレイションの難民の故郷の村への帰還の要求は「再び自分を犠牲者にする」ものだった。7人の子供の父、サレフはアメリカ特使が7月キャンプを訪問した時彼と会った。
「私の村は3回燃やされた。そして今は新たな移住者に占領されている。どうやってそこに戻ることができというのだ。我々の不満を聞いた後我々を支援する変わりに・・・彼はスーダン政府を支援しに行った」とかれはキャンプから電話インタビューで言った。
サレフは昨年難民キャンプへの流血の攻撃のひとつで33人の住民が死亡したキャンプで、治安の悪化とレイプが継続していると言った。
グレイションは後にダルフールの状況が悲惨なままであることを認める声明を出し、スーダンに対する「スマートな」制裁を指示し、難民の「適切でない時期の」帰還を訴えるつもりはないと言った。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/127266232.html


すわんさんが紹介している別の記事「ダルフール紛争はほぼ終わった 国連は南スーダンの紛争再燃に関心高める」にある、アグワイ将軍の「ダルフール紛争は終わった」発言については、日本語で読めるニュースもあった。

ダルフール紛争 平和維持部隊司令官「戦争は終わった」(2009/8/28 朝日新聞


 【ナイロビ=古谷祐伸】世界最悪の人道危機と呼ばれるスーダン西部ダルフール地方の紛争について、国連とアフリカ連合が合同で現地に展開している平和維持部隊(UNAMID)の司令官が26日、離任を前に「戦争は終わった」と語った。


 ロイター通信によると、ナイジェリア軍からUNAMID司令官として派遣されていたアグワイ将軍は「この数カ月間は山賊行為くらいしか起きていない。戦争は終わったと思う」と語った。


 ダルフール紛争は03年、黒人住民らが中央政府に対し蜂起し始まった。政府寄りのアラブ系民兵を巻き込んで泥沼化、国連によると30万人が死亡、270万人が家を追われた。国際刑事裁判所は今年、人道に対する罪などで、バシル大統領に逮捕状を出した。


 反政府勢力は現在、約20の集団に分裂し、本格的な戦闘は今年に入ってほとんど起きていない。だが、ダルフール情勢が安定するかどうかは、紛争当事者である政府の対応次第で、司令官の発言は誤解を招きかねないとの指摘も出ている。
http://www.asahi.com/international/update/0828/TKY200908280067.html

で、元記事に戻る。この記事についても、ダルフール・トリビューンで一部日本語訳が読める。すわんさんの引用箇所ではないが、こんな記述もある。

ダルフールの戦闘が消える中、国連当局者南スーダンに焦点を置く(2009/8/27 ニューヨークタイムズ

「それを戦争と言うかどうかにかかわらず、現実には民間人に対する脅威はそのままである」と平和維持軍事務総長補佐官エドモンド・ミュレは言った。戦闘のレベルは小さくなったが、1月以来さらに14万人がキャンプに避難したと彼は言った。「それはなお平和からほど遠い」と彼は言った。
戦闘の減少を引き起こした要因は反政府グループの分裂と外部からの支援の現象を含むと当局者は言った。最も最近のダルフールの死者は犯罪によるものだが、南部では衝突で最近数ヶ月数百名が死亡したと国連幹部が言った。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/126665399.html

ダルフールでの死者が減り、南部でのそれが増えたことは確か。でも、ダルフールの治安が回復したわけではない。


終わったかどうかを議論するのはなんかもう面倒なだけで不毛な気がするのだが、実態は概ねこんな感じだろうか。

  • 大規模な戦闘は終結した。
  • 避難民が帰郷できるほど治安は回復していない。

僕の感触としてはこの記事が近い。少なくともUNHCRが難民帰還事業を開始できるまでは、紛争が終わったなんて言えないんじゃなかろうか。

ミッションは完了していない:ダルフールの戦争は「終わった」からほど遠い(2009/9/3 ニューズウィーク

現在の「平穏だが緊張した」情勢は、情勢の根本的変化の反映ではなく、流動的な要因の副産物である可能性がある。現在はダルフールの荒れた道がぬかるみになるためいかなるグループも地上で攻撃するのが困難になる雨期である。
(中略)
ダルフールの村を法もした難民キャンプの人々は情勢が危険なままであるだけでなく、しばしば彼らの土地がマリ、ニジェール、チャドから来たアラブ人グループに選挙されていたことを報告する。要するにたとえいつ戦争が終わっても、ダルフールに平和と安全が回復する前になすべきことが多く残されたままだと言うことである。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/127424409.html

この記事では、沈静化の原因が雨季であるという可能性も指摘されている。

反政府勢力の統一について

反政府勢力の統一についてはどうか。ここ一ヶ月の間に、アジスアベバでSLM系のいくつかのグループが統一協定を結び、また別な6つの反政府組織がSLRFとして統合された。これもすわんさんがクリップした記事の一部を、ダルフール・トリビューンの日本語訳で。

6つのダルフール党派、新たな反政府グループ結成(2009/9/2 スーダン・トリビューン)

この新たな進展によれば、現在ダルフールには4つの反政府勢力のブロックがあることになる。すなわちハリル・イブラヒムが率いる正義と平等運動、アブデル・ワヒドが率いるSLM、SLRF、近い将来再統一されると考えられるアジスアベバ・グループである。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/127060591.html

同記事では、「新たな反政府グループの結成は、カタールが後援し、アフリカ連合アラブ連盟、国連が支持するドーハ和平協議を強化する地域的、国際的努力の重大な進展と見なされる。」と評価している。ただ、記事中でスーダン政府に触れられていないように、和平への話し合いは、まだ先のように思われる。

南部スーダンの人道問題

一方、南部スーダンの人道問題。これが喫緊の問題であることは確かだが、ダルフールと同列の文脈で語られるのは、多少違和感がある。というのは、南部スーダン南部スーダン自治政府の治めるところで、ハルツームスーダン政府(以下スーダン政府)との関係は薄いように思われるからで、ダルフールとはプレイヤーが違う。

和平協定ではまた、南部に大きな自治権が与えられ、南部スーダン自治政府が誕生した。これにより、南部はほぼ独立国のような状態にある。
南部スーダンでランドクルーザーが大渋滞している件 - フランシーヌの場合は

ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告でも、スーダン政府の関与については、マラカルでの交戦しか挙げられていない。内部での民族対立、ウガンダ神の抵抗軍による襲撃なども挙げられている。

南部スーダン:民族間抗争への対処を改善せよ(2009/6/21 Human Rights Watch)

(ニューヨーク)−南部スーダン政府、国連、ODA供与国(海外の資金提供国)は、民族間抗争で、民間人を保護することに失敗した。この重大な失策に、至急対処するべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表したレポートで述べた。南部スーダン人民解放運動と国民会議党間の間で、長きにわたったスーダン内戦は、2005年の包括和平合意によって終結した。この合意の関係国、資金提供国、海外の支援国は、2009年6月23日、治安関係を含む和平合意の実施状況を審査するための会議をワシントンDCで行なう予定である。


本報告書「見捨てられた人びと:南部スーダンでの民間人保護の欠如」(15 ページ)は、近頃急増している民族間抗争の実態、そして、南部スーダン政府とスーダン国連ミッションのがこの抗争の下で民間人を保護できていない現状を取り上げている。2009年3月と4月、スーダン・ジョングレイ州(Jonglei)で、ロウ・ヌエル(Lou Nuer)族とムルレ(Murle)族の武装した民間人の間で激しい攻撃とその攻撃に対する反撃が行なわれ、抗争が多数発生。この抗争の結果、推計 1,000名の男性・女性・子どもが殺害され、約150名の女性と子どもが誘拐された。政府当局者は、紛争が起きつつあるのを知りながら、紛争を予防する手段や民間人を保護する手段をとらなかった。また、国連ミッションも、差し迫る暴力に対処しなかった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。


(中略)


南部スーダン政府と平和維持軍が、民間人保護に失敗した例はこれにとどまらない。中央部及び西部エクアトリア(Equatoria)州でのウガンダ神の抵抗軍による激しい襲撃や、2009年2月に民間人30名以上を殺害したマラカルでのスーダン人民解放軍スーダン軍の衝突など、他の場所での民族間抗争でも、民間人を保護しなかった。


2010年2月に予定されている国政選挙、そして 2011年の民族自決に関する南部スーダンでの住民投票に向け、南部スーダン全域での暴力発生の危険性は、今後数ヶ月間高まる可能性がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、6月23日の会議に出席する南部スーダンの代表団、海外の資金提供国、外交官らに、民間人保護を最優先議題とするよう強く求めた。


(後略)


南部スーダン:民族間抗争への対処を改善せよ | Human Rights Watch

南部スーダンの状況については、もうちょっと情報がほしい。


あと、本筋とは関係ないけど。
すわんさんのエントリーにある、「Save Darfur? Or Save Sudan? (6月9日 ニコラス・クリストフの論説 ニューヨークタイムズ)」、「少年兵の除隊」、「ダルフール紛争が現在進行形であるという、ひろく流布された誤解を解こうとする大学院生の論説」についても、同サイトで日本語で読める。後者については反論も。
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/121207946.html
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/124424487.html
http://darfur-tribune.seesaa.net/article/126665399.html